博物館は「壮大な大人の自由研究」三浦しをんさんがストレートにつづった心の声

2017年9月9日12時0分  スポーツ報知
  • 記者が薦めた青函連絡船の博物館「メモリアルシップ八甲田丸」にも興味を示した三浦しをんさん
  • 三浦しをん著「ぐるぐる 博物館」

 「まほろ駅前多田便利軒」などで知られる三浦しをんさん(40)の「ぐるぐる 博物館」(実業之日本社、1728円)が、好調に売れ行きを伸ばしている。エッセーとしては2012年の「本屋さんで待ちあわせ」以来、5年ぶりに発売した同書はタイトル通り、三浦さん自身が全国各地の博物館を「ぐるぐる」回って気づいたこと、感じたことをストレートに書きつづった一冊。これを読めば、あなたも次の休日は近所の博物館に出掛けたくなるはずだ。(高柳 哲人)

 上野公園にある「国立科学博物館」というメジャーどころから、都内のビルのワンフロアに存在するSM・フェティシズムを扱った、場所・ジャンルともニッチな「風俗資料館」まで、さまざまな10の博物館を三浦さんの“目線”で紹介した同書。企画のスタート時は「ぐるぐる 美術館」になる可能性が、ほんの少しだけあったという。

 「はじまりは『美術館を巡るエッセーを書きませんか?』と言われたことです。でも、私は美術館にはあまり詳しくなく、分からないことも多そうだったので『博物館ならやりますが…』と答えたら、編集の方が『じゃあ、そうしましょう』ということになりました」

 そこから編集者が候補地をリストアップし、三浦さんが興味を引かれた場所を訪れることに。ちなみに「風俗資料館」は「編集の方が『どうしても行きたい』とアピールしたんです。ご丁寧にロケハンもしていて(笑い)」ということで採用されたという。

 訪問する際には「あまり深く考えず、感じたことをストレートに書こう」と思って足を運んだそうだが、身構える必要もなく、現地では次々に興味の渦が三浦さんを襲ってきた。

 「普段、博物館に行く時に事前に調べて行くことはほとんどないですよね。ふと興味が湧いたとか、旅行先で時間が空いてふらっと入ったとか…。だから今回、私も予備知識なく訪れることにしました。その方が、驚きや感動も大きいと思ったので。展示を見た時の『何じゃこりゃ?』という心の声をそのまま書くつもりでしたが、まさにその連続。見ているうちに『このことをもっと深く知りたい』ということが出てきて、さらに専門的な博物館を訪れたくなったのも面白かったですね」

 現在はインターネットを利用すれば、現地を訪れなくとも展示品の写真や映像を見ることができる。ただ、それでは「あらすじ」を追っただけになってしまうと考えている。

 「例えば、写真に『大きさは20センチ』と書いてあれば、何となく想像がつく。でも、実際に見てみると同じ20センチであっても物によって『こんなに大きいのか!』、逆に『こんなに小さいのか!』と感じることがあると思うんですね。それが実物でなくレプリカであったとしても、スケール感を得ることができる。時には触ることだってできるのが、博物館の醍醐(だいご)味だと思います」

 そんな博物館を、三浦さんは「壮大な大人の自由研究」と表現する。

 「特に私設の博物館はそうだと思いますが、興味があることを一生懸命追究し、自分なりのストーリーを作るというのは、自由研究でしょうね。別に、それを集めることも研究することも、他人に見せることも、究極的に言えば生活には全く必要のないこと。ただ、さまざまな博物館が存在するのは、社会がそれだけ成熟しているということにつながっていると思うんです。何の制限もなく、自由に披露できるわけですから。その意味で、素晴らしいことではないでしょうか」

 一般的に“意識高い系”の人たちは博物館よりも美術館を好む傾向があるようにも感じる。「美術鑑賞が趣味で、よく美術館に出掛けます」という言葉は度々聞くが、「博物館訪問が趣味です」という人には、なかなかお目にかかれない。

 「こんなことを言うと、全国の博物館に顔向けできなくなりますが、美術館と比べると、博物館の方がオシャレではないと思うんでしょうか(笑い)。でも、『美術館に行って図録を買って、近所のカフェでお茶をしながら図録を眺める』のもいいですが、『博物館に行って土器のレプリカを買って、それを見ながらコーヒー』でもいいじゃないですか。もしかしたら、博物館は勉強のにおいがしたり、マジメというイメージがあるのかもしれませんね。でも、そんなことは全くない。入ってみたら、何かしら発見がある面白い場所だと思いますよ」

 この本を出して一番良かったことは、周囲のさまざまな人が自分のオススメの博物館を紹介してくれるようになったことだという。

 「これまでは、自分が興味があるものを探して、そこに行くという感じでした。『他人から聞く、他人に教える』という発想がなかったんですね。博物館というのは全国に数え切れないほどあるし、海外まで合わせたら『星の数ほど』と言ってもいいと思います。私は飛行機が苦手なので、いつか優雅に船旅をしながら、世界の博物館を巡ってみたいですね」

 ◆三浦 しをん(みうら・しをん)1976年9月23日、東京都生まれ。40歳。99年、早大第一文学部卒業後の2000年、自らの就職活動の体験を基にした長編小説「格闘する者に〇」で作家デビュー。05年、「むかしのはなし」で初めて直木賞の候補となり、06年に「まほろ駅前多田便利軒」で第135回直木賞受賞。12年に「舟を編む」で第9回本屋大賞、15年には「あの家に暮らす四人の女」で第32回織田作之助賞を受賞。

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