なきぼくろ氏が「バトルスタディーズ」を通して目指す、母校・PL学園の復活

2018年5月15日14時0分  スポーツ報知
  • 「バトルスタディーズ」の作者・なきぼくろ氏。自身の体験を生かしたリアルな描写で読者を引き込む

 各界の著名人が高校野球の魅力を語る「高校野球 愛してま~す」。今回は甲子園で春夏計7度の優勝を果たした名門・PL学園(大阪)硬式野球部出身の漫画家・なきぼくろ氏(32)が登場だ。週刊「モーニング」(講談社)で連載中の「バトルスタディーズ」は自身の経験がふんだんに描かれ、ファンの強い支持を得ている。休部になった母校野球部への思いや、当時の思い出を語ってくれた。(日比野 哲哉)

 PL学園の野球に魅了されたきっかけは、硬球を握り始めた中1の頃。1998年夏の甲子園準々決勝、松坂大輔(現中日)を擁する横浜との延長17回の死闘だった。

 「たまたまリトルリーグの宮崎遠征に行く前の日にテレビで見たんです。遠征前には髪の毛を五厘にしなきゃいけないという謎のルールがあって、理髪店に行かなあかん。でも終わらへん。17回が終わって、慌てて行きながら『俺もPL行こう』と決めたんです。ビデオがすり切れるぐらい見ましたね。実況も覚えるぐらいに」

 枚方シニアの捕手、主将としてプレーする中で「PL入学」が目標になった。

 「無知って強いんです。PLのこと良く分からへんから、先輩に『お前は無理や』と言われても、めげませんでした。PL行くんだったら、アピールしなきゃいけない。中2からレギュラーを取らなくちゃいけないと思いました。キーマンは審判なんです。PLのスカウトの人が試合を見に来た時、連盟の人や審判の人に話を聞くことが多い。おべっかを使うワケじゃないけど『ウチのシニアは礼儀正しい』と思わせたいので、爆音であいさつして。『枚方シニアのキャプテン、ええな』と思わせて。それで待っていた感じですかね」

 もぎ取った合格通知。入学後は雑用に追われ、上下関係は厳しかった。想像を超えた世界は「バトルスタディーズ」の中でリアルに描かれている。取材して得た情報ではない。自ら体験し、汗と涙の末に血や肉となった青春の日々だ。

 「厳しかったですね。漫画の中に描いているのは30分の1ぐらいですけど(笑い)。先輩たちはそのぐらい衝撃的に怖かった。僕はアホで良かった。ノー天気で。怖さを楽しんでいた感じです。根っこに大阪があるから、地元に帰った時の土産話には事欠かないんです。毎日ネタがあるから。ネタ帳を作って(笑い)」

先輩に隠れて密入 練習後はコンビニなどで自由に飲み食いはできない。しかし15、16歳は腹ぺこな年齢だ。ここで1年生は「創意工夫」に乗り出す。

 「どうしても甘いものが食べたくなる。フルーチェが食べたくて食べたくて。密入するんですよ。母親に『アンダーシャツがないから送って』と電話するんですが、『フルーチェの箱を破って、袋だけをアンダーシャツにくるんで送ってくれ』と。これでフルーチェは入手できた。あとはおわんです。広島に行った小窪(哲也)が『おわんがない。どないする?』と。炊事場には忍び込めませんから。ゴミ箱に行こうと。そしたら割れた茶わんが捨ててあり、転がっていた。それを持ってきて、洗って。粉に牛乳を入れて、普通にかき回すと音が出て先輩にバレる。だから静かに叩くんです。そうすると真ん中からフルーチェになっていく。みんなで分け合って、声には出せないんですが『うま~』と。幸せを感じた瞬間でした。背徳感もあるし(笑い)」

 今の時代、上下関係の厳しさについては、負の部分がクローズアップされがちだ。しかし、社会に出ればおのずとタテの世界で生きていかねばならない。そこで生き残る「術(すべ)」を部員は自然と学ぶことになる。

 「先輩の洗濯物に関しても、マシェリというリンスがあって、それがすごくいい匂いがする。400円ぐらいで高いんですけど、みんなで分け合って、洗濯の最後に溶かすんです。それから干すと、汗をかいたときにマシェリの匂いがホワッとする。その時に先輩が『お前、なんか入れた?』と。『ハイ』『ありがとう。そういうの大事』とジュースをくれたりした。人にどういうことをしたら、喜んでもらえるか。僕は就職したことがないので、PLが社会みたいなところでした」

 そして3年生だった03年夏、ついに甲子園に出場する。1回戦の雪谷(東東京)戦では「9番・右翼」として先発出場した。無安打に終わったが、5万3000人の前でプレーした感動は忘れられない。

 「世界遺産に来た感じでした。うわあ、フェンスはこんなラバーなんや、とか、芝生はこんな匂いがするんや、とか。ずっと見渡して。最初は散漫になりますね。雪谷戦は超満員。風船が飛んでるんじゃないかと思うぐらい、フェス感がありました。あともう一つ覚えているのが、2回戦の福井商戦は第4試合で雨が降っていて。ナイター照明が点灯したんです。それが『パッパッパッ』と球場に花が咲く感じ。負けているのに『きれい!』と思ったのをよく覚えています」

 PLといえば人文字を始め、ブラバンも「ウィニング」「ヴィクトリー」といったオリジナル応援曲を有し、全国の高校野球ファンを楽しませた。

 「最高ですね。応援曲が打席に立つ時に『うわ、流れているわ』と聞こえてくる。感動ですよね。めちゃくちゃうれしかった。でも、こんなヤツがおったからあの夏、2回戦で負けたんでしょうね(笑い)」

 PL学園は2016年夏を最後に休部。100回大会のグラウンドに、その名はない。

 「残念ですね。でも残念だと思ってくれている人がたくさんいる。たくさんいるうちは、PLの野球は消えていないと思うんです。だから漫画を通して、こんなおもろい野球部をまた復活させてほしいと、ファンの方からそんな声が上がってきたらうれしいですよね。それを目指してやるしかないと思っています」

エール交換が好き なきぼくろ氏にとって、高校野球の魅力とは何だろうか。

 「桜と似てますよね。咲くまでにすごく時間がかかって、一瞬で散る。負ける方がきれい。負けたチームが支えていると思います。だから試合後に行われるエール交換が好きなんです。負けたチームは勝ったチームに大量の千羽鶴を託しますよね。あれ、1個1個全部誰かが折ったのかと思うと、託された方は頑張らなきゃなって思う。日本人の民族性に合っているんですかね。サクラが雨で散る姿すらもいいと思ってしまう民族じゃないですか。敗戦を糧に、また咲くというプロセスもいいんでしょうね」

  • 「バトルスタディーズ」14巻

    「バトルスタディーズ」14巻

 ◆バトルスタディーズ PL出身の元甲子園球児・なきぼくろ氏が、同校をモデルにした「DL学園」を舞台にして描いた高校野球マンガ。名門野球部に入部した主人公・狩野笑太郎と仲間たちが、厳しい上下関係を乗り越え、野球を通じて成長していく姿が描かれている。週刊の「モーニング」(講談社)で連載中。単行本15巻が7月23日、16巻が8月23日に刊行される。

 ◆なきぼくろ 1985年10月26日、大阪・枚方市生まれ。32歳。PL学園卒業後はイラストレーターとして活動。「漫画家になっている自分」の夢を見たことをきっかけに漫画家を志す。漫画「どるらんせ」で2013年に「第34回MANGA OPEN奨励賞&第2回eBook Japan賞」をダブル受賞。14年8月、週刊「Dモーニング」新人増刊号に「バトルスタディーズ」を掲載。その後、連載化された。リアルなストーリーと独特の描写が読者の熱い支持を得ている。

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