金足農、劇的4強呼んだ“信頼”斎藤はバントがうまい、仲間を信じ一気に本塁突入

スポーツ報知
9回無死満塁、斎藤のスクイズで2者が生還し逆転サヨナラ。喜びを爆発させる金足農ナイン(カメラ・岩下 翔太)

◆第100回全国高校野球選手権記念大会第14日 ▽準々決勝 金足農3x―2近江(18日・甲子園)

 ミラクルだ! 今大会NO1の150キロ右腕・吉田輝星(こうせい・3年)を擁する金足農(秋田)は、準々決勝で近江(滋賀)と対戦。1点を追う9回無死満塁から9番・斎藤璃玖(りく)遊撃手(3年)の2ランスクイズで逆転サヨナラ勝ち。初出場で4強入りし“金農旋風”を巻き起こした84年以来、34年ぶりの4強入りを決めた。連投の吉田は7安打2失点(自責1)で10奪三振完投。史上7人目となる4試合連続2ケタ奪三振をマークした。休養日を挟み、20日の準決勝では初の決勝進出をかけて名門・日大三(西東京)に挑む。

 信じられないようなエンディングだ。1―2で迎えた9回無死満塁。今大会9打数無安打の金足農の9番・斎藤璃玖は、打席へ向かう前、エース吉田に言った。「おれ、ノーヒットだけど、ここで決めるために来たから」。すると「バカ野郎。でも、こういう時に仕事をするのがおまえだ」。エースに肩を抱かれて送り出された。

 「つなぐ」。斎藤の心は決まった。3球目。スクイズのサインだ。「神様が僕にくれたチャンス」。低めの直球を三塁側に転がした。一塁でアウトになった後、本塁で奇跡が起こった。三塁走者に続いて「ボールは見ていない。ホームだけを見ていた」という二塁走者の菊地彪吾(ひゅうご)が、止めるジェスチャーをした三塁コーチャーを振り切って本塁へ。ヘッドスライディング。セーフ。2ランスクイズで逆転サヨナラ勝ちだ。

 斎藤は1、2回戦で4犠打を記録。「確実に次につなぐのが役目」と全体練習後の20~30分をバント練習に充ててきた“バントの鬼”だ。ただ転がすだけじゃない。スクイズやセーフティーなど「10種類くらいの場面を想定して」コツコツ練習してきた。「それを神様が見てくれたんですかね」と笑った。

 50メートル6秒0の俊足・菊地彪は、チームで一番バントがうまい斎藤だけに「成功する」と確信。だから、迷いがなかった。二遊間が前進守備だったこともあって、二塁から大きくリード。打者がバットを寝かせた瞬間に走り出した。相手三塁手がボールをつかんだころには、既に三塁を蹴っていた。

 「自分の判断。練習の成果が出た。顔を上げて、球審が両腕を開いていた。見たことのない景色だった」と菊地彪。三塁コーチャーの船木弦は「足が速く、2ランスクイズの練習をしていた」と証言。中泉一豊監督(45)も「斎藤のバントの精度にかけた。正直(二塁走者は)見ていなかった。本塁の近くに来たときに気づいた。私自身はまず1点という気持ちだった」と驚く好走塁だった。

 17日の3回戦では、横浜を高橋佑輔の逆転3ランや吉田輝星の14K完投で沈めた。2日連続のミラクルで34年ぶり4強。全員での1時間のバント練習や、冬場の3時間の雪上長靴ランが実った。5回に一時同点のスクイズを決めた佐々木大夢(ひろむ)主将は「きょうがウチらしい野球」と笑った。「目標は過去を超えること」と公立校のナインは口をそろえた。20日の準決勝は日大三が相手。同校初の決勝進出、そして東北勢初の日本一まで一気に駆け上がる。(遠藤 洋之)

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