始球式にスパイク「甲子園への感謝」…桑田さん独占手記

スポーツ報知
1984年の第66回大会準決勝、金足農・水沢(左)から2ランを放ったPL学園・桑田

 始球式のお話をいただいた時から、できれば準決勝の日に投げたいと思っていた。1年夏の池田戦と2年夏の金足農戦。この2つの準決勝が、僕の高校野球生活の中で大きな意味を持つからだ。当時、圧倒的な強さを誇っていた池田を倒したことで、どんな相手にも逃げずに挑戦する大切さを学んだ。終盤まで苦戦した金足農戦では、勝負は最後まであきらめてはいけないことを胸に刻んだ。その教訓が、その後の人生で多くの苦難や試練を乗り越える原動力になっている。

 2試合とも今日と同じ8月20日。しかも、34年前と同じ白と紫のユニホームを着た金足農の選手たちと同じグラウンドに立つとは、不思議な縁を感じずにはいられなかった。

 高校野球で立つ甲子園のマウンドは、やはり格別だ。マウンドではたくさんの思い出が胸をよぎった。日大三の広沢投手と握手した時に「風を見て投げるといいよ」と声をかけた。いつもの浜風と違う左から右への風。あの頃、僕はいつも風向きを確かめながら投げていた。

 自分を育ててくれた甲子園への感謝を込めた1球。投げるからには、両チームを元気づけるベストボールを投げたい。そのためにスパイクを履いた。少し高めに浮いてしまったが、回転のいいボールを投げることができたと思う。

 第1試合をスタンドから観戦した。金足農の吉田君は今日も素晴らしい投球。とにかく低めの直球が伸びる。しかも狙ったコースに制球できるから、そこから落ちたり曲がったりする変化球に打者は手を出してしまう。低めが伸びるのは、下半身を使って上手に体重移動ができているからだ。上体に頼った投げ方では低めは伸びないし、投球数が増えたり連投になると球威も落ちる。

 球の質と制球力に加え、投球術、フィールディングもレベルが高い。何より試合の流れを読む力がある。三振を取るべき場面と打たせて取る場面。押すところと引くところを見分けて投げている。

 県大会から1人で投げ抜いてきた吉田君は、決勝のマウンドにも立つのだろう。高野連の施策としてタイブレークや準々決勝後の休養日が設けられたとはいえ、やはり大会日程は過酷だ。僕も甲子園で4連投を経験したが、3日目からは体全体がまひしたような感覚になる。成長過程にある高校球児には壊れるまで投げてほしくない。将来性あふれる投手なら、なおさらだ。また、過密日程の緩和や球数制限など、選手を守るルールや環境を整えることも、野球に携わる大人たちの役割だ。プロ・アマの垣根を越えて、協力や議論を重ねてほしいと願っている。(スポーツ報知評論家)

 ▼1983年8月20日 第65回大会準決勝

池田000 000 000―0

PL学園041 100 10×―7

 夏春連覇を果たし、甲子園3連覇を目指していた池田の「山びこ打線」を、背番号11の1年生右腕・桑田が5安打完封。バットでも池田のエース・水野から2ランを放った。PLは決勝でも横浜商を破り日本一に。

野球

×