「逆転の三高」不発 金足農・吉田の投球術に脱帽
◆第100回全国高校野球選手権記念大会第15日 ▽準決勝 金足農2―1日大三(20日・甲子園)
悔しさをかみしめ、泣き崩れるナインの背中を支えて主将・日置航は最後の整列に向かった。「8回の自分の打席が勝負の分かれ目だった。最後の意地と気持ちで上回れなかった。監督と日本一になりたかった」。涙を流してそう、振り返ったのは8回の攻撃だった。
2点を追う1死一、二塁だった。「逆転の三高」が勢いに乗りかけたが、3番・日置は左飛。4番・大塚晃平の左前適時打で1点を返したが、優勝した11年以来の決勝進出はならなかった。
みちのくの怪腕に圧倒された。19日の練習では、打撃マシンを5メートル近づけ150キロ級の直球対策を行った。だが、その裏をかくように変化球で攻められた。走塁から崩そうと、小倉全由監督(61)が一塁走者に大きくリードを取るように指示を出せば、吉田は素早いけん制を連発。さらに、セットポジションで一塁走者に視線を送った瞬間に打者に投球された。けん制が来ると判断した走者は一塁に戻りかけた。百戦錬磨の三高ナインですら、投球技術の高さにリードすらさせてもらえなかった。
小倉監督も吉田にマウンド上から鋭い視線を送られた。ベンチから走者にリードを指示した声に吉田が反応したものだが「ふざけんな、という目で見てきた。すごい選手だなと思った」。甲子園通算2度優勝の名将も「得点圏で力を入れて投げてくる。連投の中でたいしたもの。今大会で一番の投手」と脱帽した。
例年のような超高校級スラッガーは不在で、2年生エース・井上広輝も右肘痛で出遅れたが、7年ぶりの4強入り。西東京大会から挙げた10勝のうち6勝は逆転勝ち。指揮官に「ここまで粘っこいチームは監督30年以上やってても初めて」と言わしめるまでに成長した。
「自分がもっと投げられたら」と号泣した井上は試合後、日置から「来年、優勝頼むぞ」と思いを託された。相手エースからも「これからも頑張って」と激励を受けた。この悔しさを胸に、来夏は101回大会の主役となる。(大谷 翔太)