【広島】新井、独占手記「歓喜の輪に最後の自分…不思議」

スポーツ報知
ビールを浴びる新井

◆広島10―0ヤクルト(26日・マツダスタジアム)

 9月5日に今季限りの引退を表明した新井が、スポーツ報知に独占手記を寄せた。25年ぶりのリーグ制覇を成し遂げた一昨年はMVPも獲得した功労者だが、球団の慰留を押し切り、20年の節目に身を引くことを決断。その背景を、今季のチームの成長ぶりとともに明かした。

 不思議な感覚だ。球団史上初のV3の輪に、現役ラストシーズンの自分がいる。

 小さいころは父親と走って市民球場に通った。小学2年生だった1984年の日本シリーズは授業中に先生がテレビを見せてくれた。熱狂的なカープファンのもう一人の自分が、スタンドで声をからしている気がする。チームメート、ファンの方々に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 2年前の優勝は勢いで駆け上った感じだけど、去年はそこから落ち着いてきて、今年はさらに成長している。

 ベンチでも「もう1点いくぞ」と自然に声が上がって、本当に連打が出る。逆に耐えて流れを持ってくる時も、我慢できるようになった。そういう時にキク(菊池)の集中力はすごくて、ビックリするようなファインプレーをする。

 今年はキクも広輔(田中)も打つ方がうまくいかなくて、悔しい思いをしていると思う。でも、守備になったらそれを切り離してグラウンドに立つ。4番の誠也(鈴木)もそうだけど、20代の頃の自分と比べたら…。みんな精神的にも大人だなと思う。

 打てない悔しさからベンチでバットをたたきつけたり、大声で叫んでしまう後輩もいた。結果の出なかった若い頃の自分と重なった。でも、感情をあらわにして暴れても、良かったことは何ひとつない。

 だから、後輩たちとは食事に行った際に対話を心がけた。自分の考えを押しつけたくはない。「最近、どう」とまずは話を聞く。そして、自分の経験談を明かす。みんな素直でいい子たちだし、真っすぐな目で話を聞いてくれた。成長していく姿がうれしかった。

 連覇が経験となり、自信につながって、一体感も増している。タナキクマルの3人の世代が中心となり、1つ年上のアツ(会沢)が縁の下の力持ちになっている。家族とか兄弟みたい。もちろん兄弟げんかもするけど、最後は固い信頼関係で結ばれている。

 そんな絆が凝縮されたのが7月20日の巨人戦。ズル(下水流)のサヨナラホームランで勝った試合だ。

 ちょうど西日本豪雨の被害で、マツダで試合をするのも2週間以上空いていた。試合前には募金活動でファンの方の温かみも感じていた。7点リードを追いつかれた中で、マシソンから劇的な一発。巨人とも5ゲーム差前後だったし、いろんなことが折り重なって印象に残っている。

 本当に選手層が厚くなって、いろんなヒーローが出るようになってきた。ただ、ここ数年は若手選手の登録抹消が決まって、荷物をまとめている姿を見たら「代わってあげたい」と思うようになった。

 でも、自分が今年で引退したら単純に枠が空く。そこを目がけて、若手がガンガン競争する。その方がチーム力が上がっていくし、3年後、5年後のカープを思ったら、自分はスパッとやめようと思った。

 最終的な決断に迷いはないけど、息子たちに話をした時は困ったな。「なんでやめるの?」と言われてね。

 「今後のカープのことを…」と言っても、子供にはチーム事情なんて分からない。だから「なんでもや!」と答えるしかなかった。

 広島に復帰してからは単身生活だったし、家族と過ごす時間も短かった。「今後はお前たちとの時間が増えるから」と言ったし、実際に楽しみよね。

 カープに戻ってきた15年の開幕戦の初打席で、爆発的な大歓声を浴びた感謝は今でも忘れていない。あそこで自分の気持ちに一気に火がついた。かわいい後輩たちとうれし涙で終われるように。最後の最後まで全力で駆け抜けたい。(広島内野手)

 6度舞い「うれしい」「黒田さん家で2次会」 

 7回2死一、二塁に代打で三ゴロに倒れたが、その後は一塁守備に入り、優勝の瞬間は全力でマウンドに駆け込んだ。ナインに促され、緒方監督に続いて6度、宙を舞い「石原に俺はいいからと言っていたんですが、うれしいです」。ビールかけでは「2次会は黒田さんの家でやります。300人以上入れるから大丈夫と言っていました」と中締めあいさつで爆笑を誘った。

 ◆新井 貴浩(あらい・たかひろ)1977年1月30日、広島県生まれ。41歳。広島工から駒大に進み、98年のドラフト6位で広島入団。2008年にフリーエージェントで阪神へ移籍した。15年に広島復帰。16年には通算2000安打を達成し、リーグ優勝に貢献してMVPも獲得した。本塁打王と打点王を各1度。今季年俸1億1000万円。189センチ、102キロ。右投右打。

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