田中麗奈、北京語で世界中に「届けたい」 日本・台湾合作映画「おもてなし」3日公開

スポーツ報知
主演映画で日本の心を表現した田中麗奈。中国ドラマの撮影中、現地スタッフから振る舞われた水ギョーザのおもてなしが忘れられないという(カメラ・小泉 洋樹)

 昨年の報知映画賞で助演女優賞を受賞した女優の田中麗奈(37)が、3月3日公開の日本・台湾合作映画「おもてなし」(ジェイ・チャン監督)で主演する。滋賀・琵琶湖畔の老舗旅館を立て直すべく、台湾人実業家とともに、“おもてなし”を学ぶ旅館の一人娘役を演じており、劇中では流暢(ちょう)な北京語も披露。98年の女優デビューから丸20年を迎えた今年、女優として多くの経験を重ねてきた田中は、スクリーンの向こう側と対話するような役作りを心がけている。(宮路 美穂)

 静かな映像美に心打たれる。日本語、英語、中国語が飛び交う作品であるはずなのに、どことなく小津安二郎をほうふつとさせる古きよき日本映画の余韻が漂う。「監督は私より年下で、米国育ちの台湾の方なのに、日本独特の間(ま)、映画の間をすごく大切にされている方でした。人間の心理の細かな動きみたいなものを丁寧に映しとられていた。この先、私自身も何度も見直す映画になるんだと思います」

 若き台湾人実業家と衝突しながらも、日本のおもてなしをともに学んでいく旅館の一人娘・梨花役。劇中では関西弁のせりふに加えて、ほぼ全編で北京語を話している。05年の中国ドラマ「美顔」、翌年の台湾映画「幻遊伝」に出演することを機に、その1年ほど前からレッスンを受けていたのが中国語との出会いだ。今作の撮影でも「親しみのある刺激的な現場」と楽しんで撮影に臨んだという。

 現在も定期的に中国語を学んでおり「忘れないようにあえて、中国語で考えごとをしたり、日記を書いたりしています。思わず寝言が中国語になってしまったりすることも…。脳が中国語になっているんですね」と笑う。「今の日本では街中で中国語が飛び交っていたりする。日本の方はもちろん、海外の方にも見ていただきたいです」と、日本映画の静謐(せいひつ)さが届くと信じている。

 10代後半から仕事を始め、もう20年になる。昨年は「幼な子われらに生まれ」で母親役を演じ、報知映画賞をはじめ多くの映画賞レースで受賞し、「実は20代後半のころ『女優をやめようかな』と少しだけ思ったことがあるんです」とドキリとすることを言った。「台湾や中国の仕事に興味があって、ただその夢が、なかなかつながらなかった。『夢を思い描くことって、よくないのかなあ』と少し疲れてしまった時期がありました」

 それでも自らを引っ張り上げてくれたのは仕事だった。「一度リセットして、目の前の仕事に集中しようとシフトを変えた。そうしたらそのときに来た役が、30代になったこともあるのか、悩みがあったり、人生がうまくいかないような、これまでと違った角度の役に出会えるようになった」。自らを取り巻く世界が広がるような感じがした。

 カメラの前に立つときは、映画館の客席に座る、画面の向こうの誰かに届くような気持ちで臨んでいるという。20歳のときに撮影した映画「東京マリーゴールド」(市川準監督)の公開後にもらった手紙が忘れられない。

 「今でも思い出します。『遠距離恋愛中の彼が田中さんのファンで、あなたのことが大嫌いだった。でも映画を見て、自分の気持ちや、爆発するような思いを、田中さんが体現しているような気持ちになって、泣きました』という内容で。そのとき、自分が出演した映画で『これ、自分のことだ』と思って泣いてくれる人がいたり、恋愛のヒントにしてくれる人がいるんだ、ってすごく感激したんです。スクリーンの向こうの方に届けたいなって、誰かのためにって思うようになりました」

 役を生きることは、自らの人生を投影されるような経験でもあるが、同時に、見る人の人生の支えになるようなきっかけを与えている。このせりふが、この涙が、誰かの未来を変えるかもしれない。その重みを受け止めながら、田中はこの先も役と向き合っていく。

 ◆おもてなし あらすじ
 琵琶湖畔にある老舗旅館「明月館」の一人娘・梨花(田中)は、5年前に父を亡くし、ひとりで切り盛りする母・美津子(余貴美子)を支えるため故郷に戻ってくる。経営立て直しのため、美津子のかつての恋人であった台湾人実業家・チャールズ(ヤン・リエ)が旅館を買収。チャールズの息子・ジャッキー(ワン・ポーチエ)が再建のため旅館に送り込まれるが、ジャッキーにはひそかな思惑があった。

 ジェイ・チャン監督
「たくさんの方に田中さんを薦めていただき、演技はもちろん、中国語の達者さに驚かされました。初めてお会いしたのは台湾でしたが、滞在中の田中さんが昼間は語学のレッスンを受け、夕方には現地の友人と交流して、語学を楽しんでいる姿が印象的でした。田中さんと一緒に仕事をするチャンスを得て、ともに大変な映画作りの旅に出かけられたことを感謝しています」

 ◆田中 麗奈(たなか・れな)1980年5月22日、福岡・久留米市生まれ。37歳。98年、女優デビュー作「がんばっていきまっしょい」で報知映画賞新人賞などを受賞。同年の清涼飲料水のCMで「なっちゃん」としても人気者に。代表作に「暗いところで待ち合わせ」(06年)、「夕凪の街 桜の国」(07年)など。158センチ。血液型A。

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