柄本佑、演じきった女装にストリーキング 映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」公開中

スポーツ報知
優しくも怪しげなキリッとしたまなざしが印象的な柄本佑(カメラ・小泉 洋樹)

 俳優の柄本佑(31)が、公開中の映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」(冨永昌敬監督)で5年ぶりの映画主演を果たした。母親が若い男とダイナマイト自殺した伝説のエロ雑誌編集者・末井昭(すえい・あきら)さん(69)の自伝的エッセーを映画化。女装やストリーキング(路上で全裸)などに体当たりで挑み、「起承転転転…な生き方」という末井さんの波乱万丈な半生を演じきった。俳優デビュー15年目。父・柄本明(69)ら芸能一家で培った芝居への信念を聞いた。

 変幻自在の芝居が魅力の柄本が今作で演じたのは、実在するエロ雑誌編集者・末井昭さん。存命の人物を演じるのは初めてだった。

 「他人が体験できないようなことを末井さんが先にやってくれたお陰で、こんなに疾走感がある面白いことを体験できた。最初に原作の文庫本の表紙で末井さんが女装する写真を見た時に『俺に顔が似てるな』と。顔が似てることと、冨永監督の『佑くんのままで演じればいい』という言葉で頑張れると思えました」

 母親のダイナマイト自殺から始まり、キャバレーやピンサロの看板書き、エロ雑誌の創刊、廃刊とぶっ飛びまくりの人生を演じた。

 「撮影前、監督と『ザ・青春映画から後半はミステリーになるように』と話してた。末井さんは何考えてるか分からない、何かをたくらんでる悪い人に見えるように。良い人には見えないように演じました」

 昨年3月のクランクイン2週間前に末井さんの故郷・岡山県を一人で訪問した。

 「末井さんのお母さまのお墓に台本を供えたり、セリフを覚えながら散歩して肌で感じてきました」

 思わぬハプニングで末井さんを身近に感じることもできた。

 「撮影前に食事をした時、2人で同じ種類の靴を履いてたら、末井さんが僕の靴を間違えて履いて帰って、何かの縁だからと、誰にも何も言わずに撮影が終わるまでそれを履いて、勝手に末井さんの気持ちになってました」

 撮影現場では末井さんと頻繁に顔を合わせた。

 「3~4日に1回来て、モニター前にベタ付きで無表情で見てた。何考えてるのかなと、僕はネガティブな人間なのでマイナスなことばかり考えてた。でも途中から開き直って、なるだけ末井さんがいる時は観察してた。一人でボーッと立つ雰囲気とか見てました」

 女装、ストリーキングと挑戦が多かったが、本人は平然と楽しんだ。

 「何が挑戦かイマイチ分かってない。仕事ですから、ペンキかぶれと言われたらかぶるだけ。朝、バスに揺られてメイクして裸で路上にゴーって感じ。女装は末井さんのアドバイスで、ブラとパンティーを着けてたんです。『俺、キレイじゃね!』と自信あったけど、あっちゃん(妻役の前田敦子)からは『キレイではない』と言われちゃいました」

 完成した作品への周囲の評判は上々だった。

 「末井さんは『遠い親戚を見てるみたいだ』と言ってくれたようでよかった。『普通、物語は起承転結だけど、この映画は起承転転転…な生き方だ』と言ってて、まさにそうでした。監督も『ポスター写真が僕に似てる』と。非常に男性的な監督で、現場で迷いがなく確信めいているんです。僕は内面が女子なので、安心して抱かれていればいいなと身を任せてました」

 俳優デビュー15年目。独特の存在感が光るが、自身の芝居には手厳しい。

 「情けないことに自分のあら探しをしちゃう。合格点を与えたいけど与えられない。毎回、ガッカリします。うちの母ちゃん(女優の角替和枝)から『50歳60歳は、はなたれ小僧』とよく言われるので、まだまだだなと思いますね」

 父・柄本明の反応は―。

 「毎回見てるわけではないけど、芝居がダメだと怒ってくる時は電話がかかってきますね。あれ、見てたんだという感じ。もちろんおやじ、母ちゃん、弟(柄本時生)、妻(安藤サクラ)の反応は気になります。家族であり、役者の先輩なので。でも聞いたってしょうがないし、自分の問題だなといつも思ってます」

 中高時代は年間250本の映画を見た。16歳の時の父からの独特なアドバイスが胸に残っている。

 「うちは普通の会話がなくて、映画を見とかないと会話がなかった。おやじから『セリフを覚えて電車に乗った時、そのセリフを向こうの席に座る人が言ったらどうだろうってやるといいよ』と。街で見かける人に置き換えて心情や言葉を想像するんですね。たまに思い出した時にやってます。理想の俳優像は特にないんです。作品に関われる幸せを感じながら、日々真剣に作品に取り組みたい」

 ◆素敵なダイナマイトスキャンダル
 岡山の田舎町で育った末井昭(柄本)は、7歳の時に母親が隣家の息子とダイナマイト心中を遂げる。上京後、下宿先の牧子(前田敦子)と結婚し、キャバレーやピンサロでの看板・チラシ作りで生計を立てる。エロ雑誌の出版社に入社し、編集長としてサブカルチャーとエロをミックスした新感覚の雑誌を創刊し、発禁と創刊を繰り返した波乱万丈の人生を描く。

 ◆冨永昌敬監督
「佑くんが持つ面妖さ、怪しさが末井さんに近かった。ただの男前のいい役者じゃなくて、何を考えてるか分からない目を持っていて、末井さんにつながったんです。ついさっきと全く違う別人の表情を見せたりする佑くんの演技は狙い通りでした。この映画は昔はすごかったと懐かしがる作品ではないので、昭和の時代を知らない若い人に見てほしいです」

 ◆柄本 佑(えもと・たすく)
1986年12月16日、東京都生まれ。31歳。高校在学中の2001年に映画「美しい夏キリシマ」(黒木和雄監督)のオーディションに合格、03年に同作の主役でデビュー。04年キネマ旬報ベストテンの新人男優賞を受賞。15年NHK朝のテレビ小説「あさが来た」、16年映画「64(ロクヨン) 前編・後編」など出演作多数。12年3月に女優・安藤サクラと結婚。17年6月に第1子の長女が誕生。父は柄本明、母は角替和枝、弟は柄本時生。182センチ。血液型B。

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