22歳のアナログ女王・西山朋佳三段、夢追う「初の女性棋士」への挑戦

2018年6月5日16時0分  スポーツ報知
  • 過去最も色鮮やかな和服で臨んだ一局で初タイトルを獲得した西山朋佳女王・奨励会三段
  • 奨励会の同志でもある加藤桃子前女王(右)からタイトルを奪取した西山女王

 先人たちの夢を受け継ぎ、戦っている女性がいる。棋士養成機関「奨励会」の西山朋佳三段(22)は5月24日、加藤桃子前女王(23)に挑戦した第11期マイナビ女子オープン5番勝負を3勝1敗で制し、初タイトルの女王を獲得した。史上最強の女流棋士・里見香奈女流名人(26)も届かなかった「初の女性棋士」に挑んでいる新女王に夢への思いを聞いた。

 初タイトル獲得から約1週間後の5月末。西山は穏やかな笑顔を浮かべていた。「浮かれちゃいけないんですけど、喜びはあります。ようやくだなあ…って」。女王になったのだから、お約束の祝福もある。「『これからは女王様とお呼びさせていただきます』とか…イジってもらっています」

 5番勝負では、奨励会の同志でもある加藤前女王に挑み、開幕局を落とした後に一気の3連勝で冠を手にした。2014年度、初タイトル戦の女流王座戦で加藤にストレート負けを喫した頃とは別人のような、絶対的な力を盤上に表現した。「過去の自分の将棋を見ると弱いな~、と思えるくらい変わりました」

 現代将棋の技術はコンピューター研究の導入によって劇的な進化を遂げたが、西山の棋力向上の背景には「アナログ化」があった。「今まで、ひたすらネット対局を指していたのですが、昨年から棋士の先生方に直接、盤を挟んで教えていただくようになって将棋観が変わりました。ボコボコにされた後、感想戦でいろいろ指摘していただけることが力になっています」

 5歳の時、母親に連れられ、近所の道場に通ったのが将棋との出会いだった。「ずっと将棋ばかりやっていました。面白かったんでしょうね。将棋は孤独ですけど…私は苦にしないんです。向いていたのかなって。将棋は、全ては自分の責任って思えるから気楽なんです」

 女流棋士を志す道ももちろんあったが、最高峰である棋士を目指す夢が自然と生まれた。10年に奨励会に入会し、女性として史上2人目の三段にまで昇り詰めた。

 「でも、私はまだ奨励会の本当の苦労をしていないと思ってるんです。つらいこともあったのかもしれないですけど。感情が動きにくいタイプなんです。だから、将棋を指すことで喜怒哀楽が生まれることをどこかで楽しんでいるのかもしれません。いろんなことを我慢していますけど、将棋で勝つことの喜びは何にも代えがたいです。境遇を楽しみたいと思います」

 棋士を目指す過程で、心を動かされた存在が2人いる。女流棋戦と並行して夢を追い続けた里見女流名人。「ずっと昔から今まで背中を追いかけ続けている存在です」。今年3月、里見は四段昇段を果たせずに退会した。「心から尊敬する方なので、いろいろな感情が湧き上がりました…」。もう一人は、他でもない藤井聡太七段。一昨年9月に「神の子」が四段昇段を決めた一局の相手が西山だった。「ものすごい気迫を感じて、藤井先生が怖くて怖くてしょうがなかったです。他の人とは違う、と思いました」

 半年間にわたって各18局を指し、上位2人だけしか四段昇段の切符を手にできない三段リーグ。現在37人が在籍しているが、女性は西山だけだ。「人からは『殺すくらいの気で戦え』って言われたりしますし、過呼吸を起こしながら指したこともあります。厳しい戦いですけど、もう少しで糸口が見つかるかなあと思っているので、自信を持ち続けて頑張りたいです」

 夢を受け継ぐ者。どれだけ困難な道でも、歴史を変える権利は手の中にある。(北野 新太)

 ◆西山 朋佳(にしやま・ともか)1995年6月27日、大阪府大阪狭山市生まれ。22歳。伊藤博文七段門下。5歳で将棋を始める。2010年、奨励会入会。14年1月に初段、同9月に二段、15年12月に三段昇段。14年に慶大環境情報学部に入学して上京したが、2年時の15年から休学中。振り飛車党。姉の静佳さん(25)は囲碁棋士初段。

 ◆「女流棋士」87年間誕生せず 将棋の「棋士」と「女流棋士」とでは制度が異なる。
 女性であることが資格となる制度「女流棋士」と違って「棋士」は性別を問わない。女性でも養成機関「奨励会」を突破して四段(棋士)になることはできるが、1931年に奨励会の前身機関が発足して以来の87年間で「女性棋士」は1人も誕生していない。
 今年2月に引退した蛸島彰子が先駆けとなり、後に女流棋界を席巻する林葉直子や中井広恵、タイトルホルダーとなる矢内理絵子、甲斐智美、香川愛生らも在籍したが、四段昇段は果たせなかった。
 女流タイトル戦に36期登場で31期獲得と圧倒的実力を誇り、現在も女王以外の5冠を保持する里見香奈は2011年に奨励会入り。西山より先に三段まで昇段し、三段リーグ5期を戦ったが、四段昇段を果たせずに年齢制限の26歳を迎え、今年3月に退会した。

  • 主な女性奨励会員

    主な女性奨励会員

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