「自分をうまい俳優だと思ったことはない」が口癖だった加藤剛さん

スポーツ報知
加藤剛さん

 TBS系「大岡越前」、映画「砂の器」などで知られ、端正なマスクと知性的な演技で人気を集めた俳優の加藤剛(かとう・ごう、本名・たけし)さんが6月18日午前10時11分、胆のうがんのため死去していたことが9日、分かった。80歳。所属の俳優座が発表した。本人の希望で、葬儀はすでに家族葬で執り行っており、お別れの会を9月22日に東京・六本木の俳優座劇場で開く。

 柔道部主将だった高校時代、大外刈りで一本を取ると味方だけでなく相手応援席からも黄色い歓声がとどろいた。端正な顔立ちのみならず、人柄も人気を集めた。

 小学校の校長だった父親譲りの生真面目さをデビュー作のドラマ「人間の條件」(1962年)の時から発揮した。過酷なスケジュールの合間にできた夜の自由時間。誘われる酒席は断り、自室での演技練習に費やした。ある夜、とうとう折れてバーへ。色男の登場にホステスたちは沸いたが、主演俳優は心ここにあらず。トークは弾まず、二度と誘われなくなった。

 32歳の時に生涯の当たり役「大岡越前」と出会い、たばこはやめた。酒も飲まなくなったが、みんなと一緒に乾杯だけしたくて一杯目のビールだけは傾けた。午前4時に起床し、日記とも随筆ともつかない文章をつづる習慣は俳優を始めた頃から生涯続いた。家庭で家族と過ごす時間を大切にし、自らキッチンに立ち、掃除機をかけた。「息子とは大の親友でいたい。仕事を家に持ち込む主義」とも語った。

 「大岡越前」で親友・榊原伊織役を演じた竹脇無我さんとは家族ぐるみの付き合いになり、劇中以上の親友になった。竹脇さんに第1子の長女が誕生したと聞いた日は、うれしくなって産院に駆け付け、父親より先に赤ちゃんと対面した。

 高校で芝居に目覚め、早大文学部演劇科で学んだ生粋の役者だが、晩年まで「舞台の初日は足が震える」と言った。「自分をうまい俳優だと思ったことはない」が口癖だった。だからこそ、役作りは徹底した。歴史上の人物ならば、生まれた街や生きた場所に足を運び、役の人物が実際に上った階段の手すりに触れた。

 70年に始まった「大岡越前」は99年まで続いた。計402回の平均視聴率は21・45%を誇った。大岡裁きを求め、見知らぬ人から「身の上相談」の手紙が届くほどの人気だった。

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