吉右衛門、夢で終わらせたくない…先代が練り上げた「俊寛」を欧州へ

2018年8月11日14時0分  スポーツ報知
  • 「俊寛」で俊寛僧都を演じる中村吉右衛門

 9月の東京・歌舞伎座は恒例の「秀山祭」。名優・初代中村吉右衛門の業績をたたえ、芸の継承を目的とした公演だ。率いる当代中村吉右衛門(74)は、4歳で初舞台を踏んで今年70年。節目の年に選んだのは代表作「河内山」「俊寛」。昼夜で自身の当たり役に挑む。芝居の奥義に触れ、役者人生を振り返る一方で「『俊寛』は一番好きな演目。これを世界に、特にヨーロッパに持ってきたい」と夢で終わらせたくない力強さで語った。(内野 小百美)

 「70年…。こんなに長く舞台に立てるとは。感慨より、申し訳なさの方が強い。初代(吉右衛門)にまだまだとても及ばす、恥をさらしているようで。一歩一歩、階段を上ろうとすることしかできません」。とつとつと、静かな話し口調だが、選んで発せられる言葉は熱を帯びている。「自分は未熟」の気持ちをマグマのようにため込み、芸に昇華してきた。かねて思い描く「80歳で『勧進帳』の弁慶ができる」体を保ち続けることに変わりはない。

 「秀山祭」は始まって13年、今回11回目。イチ並びということで「再び初心に帰る」という決意のもと、演目を選んだ。「河内山」では庶民の味方で人をだましても憎めない僧侶を、「俊寛」は流罪され、自分から島に残る僧の悲劇。寂しさ、孤独、悲哀、絶望が描かれるが数ある中で一番好きな役なのだという。1982年、38歳で初めて演じて36年間の年月。

 「『俊寛』は長らくやってこなかったものを初代吉右衛門が練り上げた全魂のこもった芝居。大切に大切にやっていきたい。いいスポンサーがあればヨーロッパに持っていき、ぜひ世界の人に見てもらいたい夢を持っている」。当代の芸も至芸の域に入っており、実現は十分可能だろう。

 ちなみに、展開が分かりやすいこともあって海外でも人気の演目だ。これまで実際に中村勘三郎(17代目)、市川猿之助(3代目)らが仏パリなどで演じ、好評を博している。「夢」と言いつつ、吉右衛門のビジョンは具体的。「英国、フランス、イタリアは流刑地がある。より分かりやすいのではないか。今回、一からやり直すつもり。心の動き、ヒダを大事に。心理描写は現代的に」と演技プランも明かした。

 岩の上から、遠ざかっていく船に手を伸ばし続ける幕切れの名場面。演じていると、客席は完全に消えてしまうという。いまも実父・初代松本白鸚の教えを大事にしている。

 「帆影が見えなくなったその先を見ている。ぼうぜん自失というより、自分の存在が“無”になる。実父は『石になってしまえ、石になれ』と言った。その気持ちでやっていると、あるとき上の方から“弘誓の船”(ぐぜいのふね=誓いの船)が下りてくる感覚になったんですね」。役の中で悟りの境地に入った証しだろう。

 吉右衛門が最初に「こんなに長い間」と言ったのは養父の初代吉右衛門(享年68)、初代白鸚(享年71)の人生より、長く生きている重みを含んでいる。そして「365日、心のどこかで『秀山祭』を思わない日はない」と話したことがあったが、今年もまた「これを続けることが、私が生きている理由」と鼓舞するように力を込めた。

 ◆孫おぶって初共演

 吉右衛門は6月に「夏祭浪花鑑」で孫の寺嶋和史くん(4)と芝居で初共演。和史くんをおぶって花道を歩き、親子の情愛を伝える場面だった。「おんぶして落ちたりしたら大変なので気をつけました。でも肌と肌が触れ合い、ぬくもりある引っ込みにしたかった」といい、「じいじは汗かくから嫌、と言われ困りましたが25日間無事終わってよかった。彼(和史)を見ながら、また彼を励みにして、こちらも舞台を勤めました」と話した。

 ◆5年ぶり復帰、福助にエール

 昼の部「金閣寺」では、脳内出血でリハビリを続けてきた中村福助(57)が、5年ぶりに舞台復帰を果たすのもうれしい話題。福助は慶寿院尼(けいじゅいんに)、その長男・中村児太郎(24)が雪姫で親子で出演する。

 吉右衛門は共演こそないが「『秀山祭』での復帰はまことな慶事。(福助の父・7代目中村)芝翫さんにもずいぶん教えを請い、(福助らの)成駒屋とは大変ご縁がある。児太郎さんにも持てる力を発揮してほしい」とエールを送った。

 福助は、7月の復帰発表時に「再び歌舞伎座の舞台に立てる喜びをかみしめております。幸せで胸が一杯。まだ万全ではないが今自分が出来ることを精一杯務める所存」とコメントしている。

 ◆秀山祭とは 初代中村吉右衛門の生誕120年を記念し、功績を顕彰し、芸の継承を目的に2006年に始まった。初代にゆかりの深い演目が選ばれることが多い。「秀山」は初代の俳名。

 【上演演目と主な出演者】
 昼の部(11時開演)「金閣寺」(中村梅玉)、「鬼揃紅葉狩」(松本幸四郎)、「河内山」(吉右衛門)
 夜の部(4時半開演)「松寿操り三番叟」(幸四郎)、「俊寛」(吉右衛門)、新作歌舞伎舞踊「幽玄」(坂東玉三郎)

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