菅原洋一、85歳の「家宝」…50年以上熱唱「今日が最後の気持ちで歌い続ける」

スポーツ報知
「最近はステーキをよく食べて、毎日ウォーキングしてますよ」と健康の秘訣(ひけつ)を語った菅原洋一

 デビュー60周年を迎えた歌手・菅原洋一(85)のヒット曲「今日でお別れ」(作詞・なかにし礼、作曲・宇井あきら)。1967年に発売もヒットしなかったが、69年に森岡賢一郎氏のアレンジで再録音、再発売。60万枚超えのヒットを飛ばし、70年に日本レコード大賞を受賞した。菅原が「家宝」として大切にし、約50年にわたり「今日が最後」の気持ちで熱唱してきた同曲への思いとは―。

 今日でお別れね もう会えない―。約50年前、悲しげなメロディーと菅原の甘い歌声が魅力の「今日でお別れ」は日本中に響いた。

 「女性に喜ばれる歌を探してた時にこの曲の譜面を見て、悲しい女心を表現していいなと。ステージで歌ったら評判がよくて、レコードにとなったんです」

 デビュー9年後の67年に発売したが、前作「知りたくないの」のロングヒットの陰に隠れて日の目を見ず。2年後、「君といつまでも」「ブルー・シャトウ」などを手掛けたヒットメーカー・森岡氏(今年8月死去、享年84)のアレンジで再発売した。

 「最初は8分の6拍子でテンポが速くて、もっと良い音がないかなと相談して、4分の3拍子でお願いした。森岡さんは寡黙な方でしたけど、マンドリンの音色が入って、切なく悲しげな心に残る曲調になった。乗れるリズムで、自分の歌を心おきなく表現できた」

 切ない女心を描く、なかにし氏の詞も胸に刺さった。

 「思いを寄せた男性が既婚者で、自分は身を引くという女心を表現してた。僕はアルゼンチンタンゴを歌ってデビューしたので、切ない男の歌を歌うのが好み。でも、思いは男も女も関係なくて、女性の優しい言葉遣いが好きだった」

 レコーディングでは思うがままに歌った。

 「アドバイスは全くないし、無意識ですよ。森岡さんのアレンジが良いからスーッと入れた。3拍子はいろんなふうに乗れる。その場のフィーリングで少し遅れて出たり、早く乗ったり、毎回どう歌えるか楽しい」

 60万枚を超える大ヒットを記録した。「ロカビリーやいろんな音楽の中で、僕のようなスローワルツがヒットするなんて運が良かった。札幌のダンスホールで多くの人が歌ってたり、パチンコ屋さんで流れたり。僕は当時、ホテル高輪のラウンジで夜中3時まで歌ってて、銀座のホステスがお客さんを連れてくる。女心の歌を聴かせようとしたんですね。五木ひろしさんがバーで弾き語りのエンディングで『今日で―』を歌ってくれてたり、少しずつ広がっていったんです」

 ファンの反応には独特なこだわりがある。「別れの歌なので最後に歌うことが多いです。演歌は1コーラス歌うと大拍手だけど、僕の曲は聴き入ってるから拍手はない。それが僕の歌の世界。拍手で雰囲気が壊されるより、ゆっくり聴いて最後に拍手が欲しいね」

70年レコ大に輝き由紀さおりからキス 音楽番組「夜のヒットスタジオ」の常連に。その愛嬌(あいきょう)ある笑いじわから、司会の前田武彦氏に「ハンバーグ」と名付けられた。「仕事をあちこちして肉類をよく食べて太って顔がプクプクしてたから、肉をフライパンにペタンとした感じが似てたんでしょ。よく分からなかったけど、僕はハンバーグは好きだし、大人から子供まで誰もが好きだし、いいじゃんと。面白いよね~」

 70年にはレコード大賞に輝いた。

 「岸洋子さんが対抗馬でした。僕は私立の国立音大、向こうは国立の東京芸大で背が高くてコンプレックスがあったんです。生きてれば良いライバルでしたね。発表の時、近くにいた由紀さおりさんが急に『菅原さんが大賞を取ったら、キスするね』と。客席で呼ばれた瞬間、本当にほっぺにキスしてくれた。うれしさ2倍でしたね」

 パワフルな歌声は幼少期から健在だった。

 「5歳の頃、兵庫の加古川の商店街でうろちょろしてると『邪魔だ!』とよく怒られた。でもある時、ラジオで聴いた流行歌を歌ったら周りの大人が『洋ちゃん、うまいね』と褒められた。うれしくて人前でよく歌ってました。母は僕を産んですぐ亡くなったんです。本当に歌がうまかったそうで、母親からもらった歌声なんですね」

 50年以上歌い続けてきた同曲には感謝しかない。

 「家宝ですよ。この曲があって今がある。聴いてくれて『よかった』と思ってもらうのが生きがいです」

 8月で85歳、歌手生活は60周年を迎えた。「長いような、短いような感じ。今はいろんな歌がある中で僕を選んで聴いてくれる人に感謝することが大事。引退は考えてない。今日が最後だという気持ちで歌い続けると次につながるんです」

 ◆10・3アルバム発売「自分の生き方重ねて聴いて」 デビュー60周年を迎えた菅原は、10月3日にアルバム「歌い続けて60年 ふり返ればビューティフルメモリー~85才の私からあなたへ~」を発売する。ヒット曲「知りたくないの」、娘の菅原歌織さんとのデュエット曲「小さな喫茶店」など19曲を収録し、「自分の生き方と重ねて聴いてほしい」と呼び掛けた。10月6日に東京・なかのZERO大ホールで60周年記念コンサートを開催。最近は小中規模の会場での公演を多く行っており、「お客さんに歌を手渡しするステージにしたい」と掲げた。

 ◆菅原 洋一(すがわら・よういち)1933年8月21日、兵庫・加古川市生まれ。85歳。国立音大声楽専攻科卒。58年タンゴ歌手としてデビュー。62年ポリドールからレコードデビュー。67年「知りたくないの」が大ヒットし、NHK紅白歌合戦に初出場(88年まで22回連続出場)。代表曲は「誰もいない」「忘れな草をあなたに」など多数。82年シルヴィアとのデュエット曲「アマン」がヒット。2000年以降は全国で「ニュークラシカルコンサート」を開催。血液型B。

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