【キリンのスカイ寄席】歌丸師匠とハイジャック犯

スポーツ報知
羽田空港の保安検査場前に立つ林家木りん

 皆さま、「キリンのスカイ寄席」にようこそ!

 私は落語界でナンバーワン(身長が)の噺家で落語界の横綱を目指している、林家木りんと申します!

 この度スポーツ報知さんのwebで定期的にコラムを書かせて頂くことになりました。

 素直にとても嬉しいです。

 皆さん私を「ほうち」しないでくださいね(笑)

 何についてのコラムかと言うと、勘の鋭い方ならもうおわかりでしょう。

 キリンのスカイ寄席ですから空にまつわること。

 そう、空港や飛行機について書かせて頂こうと思います!

 まず僕のことを知らない方がほとんどだと思いますのでざっと自己紹介を。

 先ほど身長がナンバーワンと書きましたが、身長が193センチありまして、近ごろまた1センチ伸びました。父が大相撲の大関・清国、落語の師匠が「笑点」の黄色い着物、林家木久扇です。

 またちょくちょく自分のことも書いていきますので、「キリンのスカイ寄席」ご愛読よろしくお願いいたします!

 僕は落語家という商売柄、全国で落語会に出演させて頂きます。地方公演というのは旅行気分にもなって楽しみの一つです。

 皆さんも空の旅行が好きな方は多いですよね。

 今は交通の便がよくなったので思い立ったらすぐに旅行ができますが、昔は大変だったんです。

 江戸時代は一生に一度はお伊勢参りをしたいという方が多かったそうです。

 なぜお伊勢参りがそんなに流行ったかというと江戸時代は今のように自由に行動することができず、旅する際には通行手形がなければ関所を通ることができなかった。

 通行手形も簡単に手に入るものではないし、

 それを手に入れても関所を通るのは大変だった。

 関所でなにをするかというと、まず通行手形のチェック、そして本人の職業、住所の確認、持ち物検査などでとても厳しかったといいます。

 ところが伊勢神宮に参詣するという名目なら比較的楽に許可が下りたそう。

 ですから江戸時代の人は旅をする(お伊勢参り)のは憧れだったのです。

 今はお伊勢参りでしたら、日帰りでできてしまうという時代になりました。

 これも政治制度や飛行機などの文明が近代化したおかげですね。

 だから飛行機や空港に感謝。

 さてここからが本題です。

 先ほど関所についても説明させてもらったが、現代の関所といえば、保安検査場です。

 空の旅をするにあたって絶対通らなくてはいけない場所、保安検査場。

 ここではチケットを確認して危険な物を持ち込んでいないか、隠していないか、を調べるのです。

 ここではいろんなエピソードが生まれます。

 先日お亡くなりになった、落語界のレジェンド桂歌丸師匠。

 僕の歌丸師匠のイメージは、物静かで温かく後輩を見守ってくれて、旅では必ず崎陽軒のシウマイ弁当をくださる方でした。

 いろんな所でご一緒したことは僕の大切な思い出。

 着付けについた時、歌丸師匠の身体は骨と皮だけの様に見え人間はこんなに痩せていても、仕事をして生きていけるんだとつくづく人間の神秘を感じました。

 僕の「世界ふしぎ発見!」だ(笑)

 そんな師匠との空港での思い出を。

 そう、あれはまだ僕が前座だった5年程前、歌丸師匠が羽田空港の保安検査所の金属探知機のゲートを通過した、その時事件は起きた。

 歌丸師匠がゲートを通過しようとしたら、ピーーーッ!と金属探知機が反応。

 保安検査官の方が「お客様すみません。なにか金属など身に付けていらっしゃいますでしょうか?」

 歌丸師匠「金属は身に付けてはいないのですが、背中と腰にボルトが入っています」

 そう歌丸師匠は背中を悪くしており、ボルトを入れているのだ。いつもなら診断書を見せて通過するのだが、その日に限ってお忘れになった。

 保安検査官「かしこまりました。一応安全確認のため調べさせて頂きます。」

 僕は、日本の空港のセキュリティはさすがだなと感心していると保安検査官が手持ちの金属探知機で歌丸師匠の背中を入念にチェック。

 それも何度も。

 あの温厚な師匠の顔がどんどん険しくなる。

 その表情を見てピリピリする僕そしてマネージャー一行。

 早く通してくれと歌丸師匠を仏様のようにみんなが心の中で手を合わせていた(笑)

 そして係りの人がゲートに師匠を促す。

 またアラーム音。

 僕たちの祈りは通じず、もう一回調べ直し。

 ハンド型の金属探知機で二回目のチェック。

 保安検査官もうしろで並んでいるお客さんも「笑点の人だ!」ということに気づいてくる。

 あの国民的、お茶の間の有名人が怪しいものを持ってないか、入念にチェックされている。

 これは面白すぎる。

 保安検査官の反応と裏腹に師匠のイライラが募る。

 やっと検査が終わりハイジャック犯かどうかの疑いが晴れ、師匠は搭乗機に乗り込んだのであった。

 めでたしめでたし。

 でも皆さん考えてください。

 果たして車椅子に乗っている歌丸師匠がハイジャックはできるのかどうかを。

 でもそこまで調べている保安体制だから僕たちは安心して楽しい旅ができる。

 今日も日本の空は安全だ。

 ◆林家木りん(はやしや・きりん)本名・佐藤嘉由生(さとう・よしゆき)1989年2月10日生まれ。29歳。父は大相撲の元大関・清国。2009年3月に林家木久扇に入門し「木りん」。13年11月に二ツ目昇進。今年6月に初の著書「師匠! 人生に大切なことはみんな木久扇師匠が教えてくれた」(文芸春秋)を出版した。14日に地元・浅草のカフェを借り1日限定でバー「KIRIN’SBAR」のオーナーに。開店と同時に満員のお客さんに感謝しながらも、落語の勉強会より多いお客さんの数と盛り上がりに、やや複雑な気持ちに…。

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