斎藤慎太郎七段、念願の初タイトル獲得 26年ぶり関西勢4冠

スポーツ報知
念願の初タイトルを獲得した斎藤慎太郎新王座

 第66期王座戦5番勝負の最終局が10月30日、甲府市で行われ、挑戦者の斎藤慎太郎七段(25)が中村太地王座(30)を破り、対戦成績3勝2敗で初タイトルを獲得した。斎藤新王座の誕生により、関西所属棋士が全8冠のうち4冠を占める勢力図に。関西勢4冠は26年ぶり。7棋士が全8冠を分け合う群雄割拠の将棋界は、東西分権の時代を同時に迎えている。

 最終局を制して少年の頃から夢見た頂に達しても、春風のように笑うだけだった。終局直後、斎藤新王座が浮かべたのは涙ではなく、いつもと変わらない微笑だった。「まだ実感はないですけど、これからしっかり将棋の実力、普及ともに精進していかなければと思います」。今の喜びを誰に伝えたいかと問われ「家族」あるいは「師匠」と答えるかと思いきや「日々、声援を送ってくださるファンの皆さまに」と語った。

 26年ぶりに羽生善治の姿がない王座戦5番勝負。昨年、羽生を破って初タイトルを獲得した中村に挑んだ。1、2局に連勝して一気に王手をかけたが、3、4局を落として逆に追い込まれた。流れは完全に中村に傾いていたが、最終局は振り駒で得た先手番の利を生かし、終始リード。悪手を全く指さずに勝ち切った。「流れは厳しかったですけど、踏みとどまれて成長を見せることができて、ホッとしています」

 斎藤の語る「成長」とは昨春、初めてタイトルに挑戦した棋聖戦5番勝負での自分を対象にしている。羽生に1勝3敗で屈した。淡泊な印象を残すシリーズだった。「負けることを恐れていました。だから、今回は勝負にこだわって、前とは違った姿を見せたいと思いました」。自ら「静かなる闘志」と表現した内なる感情を武器に、盤上に情熱を注ぎ込んだ。

 将来を嘱望されながら、一般棋戦も含めて頂点に縁がなかった。昨年、自らが羽生に敗れた直後の王位戦で羽生を圧倒し、初タイトルを奪取した菅井竜也七段(26)は奨励会同期。今期、やはり初タイトルに輝いた高見泰地叡王(25)は同学年。当然、期するものはあったはずだが、意外な言葉を口にした。「もちろん悔しいという気持ちもあったんですけど、私の場合はうれしい思いもありました。同じ道を志し、昔から戦ってきた棋士が輝くのは。そういうのは…私ぐらいかもしれないですね」

 心優しき男は柔らかな雰囲気のままで言った。「ここはゴールじゃありません。むしろスタートだと思っています」。穏やかな口調だからこそ、激しい思いを込めた言葉にも聞こえた。(北野 新太)

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