草刈正雄、脱二枚目「今が一番楽しい」 主演映画「体操しようよ」9日公開!

スポーツ報知
立て看板と同じ動きを注文され、気さくに応じる草刈正雄(カメラ・能登谷 博明)

 俳優・草刈正雄(66)が7年ぶりに主演した映画「体操しようよ」(菊地健雄監督)が9日、公開される。草刈といえば、いまも「美男子」の象徴のような存在。しかし本人は「どうすれば二枚目のレッテルを剥がせるか」に悩み続けてきた。それが近年、コミカルな役も増え、イメージは変化。今作では不器用ながらいつも懸命な「定年シングルファーザー」を味わいある演技で見せる。デビューから約半世紀。ようやく悩みから解き放たれ「いま一番仕事が楽くて」と俳優人生“第2章”に充実の表情を見せる。

 「ここに出てくるお父さんは、僕がやるとリアリティーがなくなるんじゃないか心配で。でも役者の欲深さ。演じたい気持ちが勝って」。今作でも、主人公を演じる上で二枚目がマイナスにならないか気にしていた。

 「体操しようよ」。のんびりしたタイトル。癒やし系の作品を想像したら全然違う。劇中での草刈のジャージー姿に注目してほしい。腹が出ているのを隠そうともしない。「ちょうどあの頃、いいタイミングでおなかにお肉が付いちゃったんだよね」と言って笑う。

 ラジオ体操が“キーアイテム”となって話は展開するが、たかがラジオ体操ではない。朝の体操を巡って無数に事件が起き、サスペンス的な要素まで。主人公は人一倍、性格が良くて仕事一筋だが、さほど出世せず定年。今後の過ごし方や地域の人々との交流もよく分からない中で老後は始まる。

 草刈の父親は米国人兵士だったが、日本人の母親が妊娠中、朝鮮戦争で戦死。つらさを忘れたい一心でか、母は写真類全てを捨てた。そのため父の顔を知らない。「でもよく言われましたよ。『あんたはお父さんに全然かなわないわよ』って。俺が自分で言うのも変だけど、はるかにハンサムだったらしいですよ」

 ある一言で人生が変わった。アルバイト先のスナックの店長に「モデルになった方が稼げるぞ」。「月に1万9000円ぐらいもらっていたとき、月5万円くれて部屋代もいらない、と。でも、まさか九州から上京するとも、役者願望もなかった。あの一言がなければ…。今頃、水商売みたいなことしてたんじゃないかな」

 今作では娘と父親の関係も大きな軸。娘は父を心配しながら、あえて突き放す。草刈にも娘(2人)がいる。「映画の関係と似たようなものですよ。思春期はいろいろうるさく言ったけれど、今は放任というか。自主性に任せつつ、親っていつも子供が心配なもの」

 草刈に直接会ってみて分かったが声を出してよく笑う。心地良く響く美声。受け答えは腹話術のようにあまり口元が動かないのが特徴だ。だから端正な顔も崩れない。資生堂のCMに始まり、角川映画の全盛期に「復活の日」「汚れた英雄」で不動の二枚目スターとなった。

 「芝居の腕がないから30代になって淘汰(とうた)された感じになるのも理解できた。何より二枚目と決めつけられるのが苦痛で苦痛で。いかにそのレッテルを剥がせるかが悩みでしたよ」

 デビュー初期からコミカルな役も大好きだが、めったにこない。しかし、昨年のNHK大河ドラマ「真田丸」の真田昌幸役で個性派俳優に“開眼”した。「何十年もやっていてこんなこと起こるんだ、とびっくりですよ。でも僕なりに、この仕事に決着がついたというかね。今が一番楽しい気がしてならないですよ」。ユーモラスに誇らしげに語る姿は、やはり格好良かった。

 ◆草刈 正雄(くさかり・まさお)1952年9月5日、福岡県生まれ。66歳。70年化粧品メーカーのCMで一躍有名に。74年俳優デビュー。主な出演作に映画「復活の日」(80年)、「汚れた英雄」(82年)、最近ではNHK大河ドラマ「真田丸」、フジテレビ系「68歳の新入社員」など。来年4月スタートのNHK連ドラ「夏空―なつぞら」にも出演が決まっている。長女・紅蘭(くらん)はタレント、次女・草刈麻有(まゆう)は女優。

 ◆体操しようよ あらすじ
 シングルファーザーの佐野道太郎(草刈)が定年を迎えて帰宅すると娘(木村文乃)の置き手紙が。今まで家事をしてきたが、自分の人生を生きたいので、今後は家のことは全て自分でやってほしい、という内容。仕事人間だった道太郎は、家事だけでなく地域の人たちとの交流も一からのスタート。そのきっかけが毎朝のラジオ体操。しかし、その中で思わぬ問題が起きていく。共演は和久井映見、きたろう、渡辺大和ら。109分。

 菊地健雄監督のひと言
「編集しながら草刈さんの役作りの深さに感動。ひょうひょうとした体操会会長役のきたろうさんのアドリブにも助けられて。草刈さんが『きたろうさんの顔を見てたら、素直な感情が出てきた』と。2人の演技の“化学反応”がよかったと思う」

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