伊藤女流二段が「圧倒的空気感」で里見女流名人へリベンジマッチ

スポーツ報知
挑戦権獲得後、感想戦に臨む伊藤沙恵女流二段

 第45期岡田美術館杯女流名人戦の女流名人リーグ最終一斉対局が13日、東京・渋谷区の将棋会館で行われ、伊藤沙恵女流二段(25)が相川春香女流初段(24)に勝ち、通算8勝1敗で2期連続の挑戦権を獲得した。来年1月20日に神奈川県箱根町で開幕する5番勝負で里見香奈女流名人(26)=女流王座、女流王将、倉敷藤花=とのリベンジマッチに臨む最強挑戦者。携える武器は「剛直流」郷田真隆九段(47)から学んだ姿勢である。

 挑戦権獲得後、伊藤が漂わせた空気は昨期とは全く異なっていた。風格、貫禄と少しの余裕。「挑戦できるのはうれしいですけど、幸運でした。リーグ戦は相手にしっかり指されたら負けていた将棋もたくさんある。むしろ反省すべき点ばかりです」。笑顔もちょっとだけ。挑戦権は通過点と捉えている。

 通算8勝1敗でリーグ連覇。優勢の将棋は危なげなく勝ち切り、劣勢においては妖しい勝負術で逆転につなげた。今期は他棋戦を含めて勝数(18)、勝率(・818)、連勝(12)部門で首位。挑戦者決定戦で2度敗れてタイトル戦登場はなかったが、最も安定した力を発揮した。「いえ、調子良いという感覚は…ないです」

 壁を越えるまで真の笑顔は封印する。過去5度、タイトルに挑戦したが、獲得には至らず。昨期は女流王位、女流王将、倉敷藤花、そして女流名人と女流6大タイトルのうち4タイトルで里見に挑んだが、いずれも屈した。リーグ全勝で初挑戦した女流名人戦5番勝負では力負けで3連敗。敗退後は瞳に涙を光らせた。「悔しかったです…思い出したくないです。里見さんはライバルなんて言える方ではなくて、ラスボスと戦っている感覚です。見習わなきゃいけない存在です」

 今期、大きな糧になった一局がある。「朝日杯」一次予選で男性棋士の小林宏七段(55)、近藤正和六段(47)に連勝。準決勝で対戦したのが郷田九段だった。羽生善治竜王(48)を頂点に強豪棋士がズラリと並ぶ「羽生世代」の一人。実績のみならず、将棋の本質を直視した「剛直流」のスタイルはファンのみならず、棋士からも敬意を持って見られている。女流棋士がトップ棋士と指す極めて珍しい一局で真っ向勝負を挑んだが、完敗した。「郷田先生は修業時代から棋譜を並べた憧れの先生。私の何十倍もの読みの深さ、指し手の精度の高さ。天と地の差で、全く歯が立ちませんでした」

 盤上技術のみならず、学び取ったのは「空気」だった。「堂々とした迫力、感じたことのない空気感に圧倒されました。自分も堂々とした姿勢で臨まなきゃいけないなと」

 10連覇を目指す圧倒的王者に挑む。「女流名人挑戦者の名に恥じない将棋を指したいですね」。威風堂々。伊藤は凜(りん)とした顔つきで決戦を見据えている。

 ◆5番勝負日程

 ▽第1局(1月20日)
 神奈川県箱根町「岡田美術館 開化亭」

 ▽第2局(同27日)
 島根県出雲市「出雲文化伝承館 松籟亭」

 ▽第3局(2月10日)
 千葉県野田市「関根名人記念館」

 ▽第4局(同18日)
 東京都渋谷区「将棋会館」

 ▽第5局(同24日)
 岡山県真庭市「湯原国際観光ホテル菊之湯」

 ◆伊藤 沙恵(いとう・さえ)1993年10月6日、東京・武蔵野市生まれ。25歳。屋敷伸之九段門下。5歳で将棋を始める。唯一の女子として出場した2004年の小学生名人戦では佐々木勇気(現六段)、菅井竜也(現七段)に次いで3位に入り、話題に。同年、棋士養成機関「奨励会」入会。14年に退会して女流棋士に転向。振り飛車も指しこなす居飛車党。ディズニー愛好家。

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