脚本家・大石静さん、ドラマ「大恋愛」で苦心 ムロツヨシ出演決まり「書き直した」

スポーツ報知
戸田恵梨香とムロツヨシの熱演が光る「大恋愛~僕を忘れる君と」のワンシーン

 「ラブストーリーの名手」と称される人気脚本家・大石静さん(67)が書き下ろしたTBS系連続ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」(金曜・後10時)が、SNS上などで「泣ける」と大きな反響を呼んでいる。視聴率も好調で、初回見逃し配信再生回数は4月期ドラマ「ブラックペアン」を超え、同局ドラマ最高の167万回を記録。純愛ドラマはヒットしづらいとされる近年、「大恋愛」が人々の心を打つのはなぜか。そこには、大石さんの苦心があった。

 「大恋愛」は、NHK「セカンドバージン」(2010年)を始め多くの恋愛ドラマを手掛けた大石さんにとって“平成最後のラブストーリー”だ。

 主演の戸田恵梨香(30)演じる若年性アルツハイマーに侵された女性医師・北澤尚が、ムロツヨシ(42)演じる元小説家・間宮真司と運命的に出会い、10年にわたる純愛を描く。引き込まれるような熱演に大石さんは「これまでの作品でも、こんなにリアルなカップルは、なかなかいない」と舌を巻いた。

 脚本のオファーを受けたのは1年ほど前。しばらくして難題が持ち上がった。“恋愛の障壁”として、過去の作品で「年齢差」「罪」などを用いたが、本作では難病「アルツハイマー」に。「救いがない。終わり方が難しいと思った」

 だが今年に入り、戸田の主演が固まり、連ドラで本格ラブストーリー初挑戦のムロの出演が春頃に決まったことで「『これは、いけるかもしれない』という気持ちがしてきた」。初対面したムロの印象は「(07年の連ドラ)『暴れん坊ママ』で大泉洋さんに初めて会った時のように自信に満ちあふれていた」。

 当初は「二枚目俳優をイメージして」脚本を書き始めていたが、三枚目の印象が強いムロの起用が決まり、大幅に書き直したという。「全く頭の考え方を変えた。切ない人生、とてもつらい恋の話だけど、ギャグっぽい場面や面白い話をたくさん入れて、苦しさを緩和させようと思った」。独自の切り口が見つかった。

 第3話で戸田がムロの鼻近くのホクロを押すと、ムロが変顔をするコミカルな場面も生まれた。「苦しいことを描くのは簡単。幸せな感じと面白いことを描くのに本当のテクニックがいる。最後まで苦労した」。ムロは抑制の利いた芝居で、意外なイケメンっぷりを発揮している。

 “草食系”という言葉が大手を振り、刑事や弁護士などの“お仕事もの”ドラマが全盛の時代。それに抗(あらが)うようなド直球の純愛ドラマが人々の心を捉えて離さない。「アルツハイマーは誰にとっても、今そこにある危機。恋愛の部分は、『病気でも好きだよ』という夢の世界。現実と夢の組み合わせ具合がちょうどいいのでは」と自己分析。「リスクの少ない恋をする傾向がある時代に、震えるような喜びを描きたい」

 86年の脚本家デビューから第一線を走り続けてきた大石さんは、20代で結婚したが、外で恋愛をしたこともあったという。「多くの経験から生まれ出た想像力が豊かなものを生んでいる。だから、取材はしない」。執筆時は一人書斎にこもり、己と向き合う。

 12月14日放送の最終回に向け、撮影は順調だ。今月上旬、横浜市内のスタジオでは第6、7話の収録が行われた。戸田とムロは、リハーサルを終えると、病院の一室のセットの裏で数分間真剣に話し合い、本番に臨んでいた。合間には笑い声も漏れ、現場の雰囲気の良さが伝わってきた。

 終盤にさしかかった物語の今後について、大石さんは「2人の固い絆だけでない、意外な展開を用意しています」と予告。心震えるラストが待っているに違いない。(江畑 康二郎)

 ◆大石 静(おおいし・しずか)1951年9月15日、東京都生まれ。67歳。1974年、日本女子大文学部卒業。81年、劇作家・永井愛さんと劇団「二兎社」を設立し、86年に「水曜日の恋人たち」で脚本家デビュー。91年、二兎社退団。97年、NHK連続テレビ小説「ふたりっ子」で第15回向田邦子賞と第5回橋田賞をダブル受賞。

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