藤井聡太七段ロングインタビュー〈1〉 「斬り込んでいく張本智和選手の姿に勇気付けられました」

スポーツ報知
本紙インタビューに答える藤井聡太七段

 2018年の将棋界は、1月5日の羽生善治竜王(当時、48)への国民栄誉賞授与決定に始まり、12月21日の羽生の無冠転落に至るまで話題の尽きない激動の一年だった。前年のルーキーイヤーに大フィーバーを巻き起こした藤井聡太七段(16)は、さらに勝利を重ねた。2月の朝日杯で史上最年少の全棋士参加棋戦優勝を果たし、10月には新人王戦を制覇。12月には史上最年少で通算100勝に到達した。天才少年にとって、どんな一年だったのか。3回にわたるロングインタビューで、彼の声に耳を傾ける。(北野 新太)

 ―昨年の年末インタビューでは、卓球の張本智和選手との対談をしていただきました。1学年下の張本選手は年明けの全日本選手権のシングルスを史上最年少で制し、12月のワールドツアーグランドファイナルのシングルスでも優勝した。さらに世界一へのステップを上がったように見えましたけど、同世代として活躍をどのように見ていましたか?

 「やはり卓球は中国勢の若い方の層が厚いと思うのですが、さらに一段と若い張本さんが斬り込んでいく姿には勇気付けられるものがありました。姿勢を学びたいなと思います。卓球というスポーツは瞬時の判断力が求められる競技だと見ていると当然感じて、将棋ですと、もっと時間をかけて考えられるという面はありますけど、(一分以内に次の手を指さなくてはならない『一分将棋』の状態における)秒読みの時であったり、決断を求められる時というのは必ずあるので、見ていてすごいなあと思うことが何度もありました」

 ―張本選手がさらに飛躍したように、藤井七段にとっても大いなる前進の一年でした。分かりやすいもので言えば段位。2月初めには四段だったのに、5月の終わりには七段になっていた。

 「たしかに朝日杯と新人王戦では優勝という結果を残すことが出来ましたけど、一方で竜王戦(決勝トーナメント2回戦敗退)や王座戦(挑戦者決定トーナメントでベスト4)では残念な敗戦もありました。敗局も含めて、学ぶことの多い一年だったと思います。デビューから公式戦を100局以上も重ねて来ましたけど、一局一局、今も変わらない気持ちという思いが強いです」

 ―朝日杯では羽生善治竜王(現九段)を準決勝で、広瀬章人八段(現竜王)を決勝で下して優勝した。棋界最高位の棋士と、その後に棋界最高位に就いた両棋士に勝ったことになります。

 「タイトルホルダーの方と対戦すること自体、朝日杯が初めて(準々決勝では佐藤天彦名人を撃破)でした。持ち時間が短い将棋でしたので、決断良く指していけたのは良かったのかなと思います」

 ―さすがに自信になったのでは。

 「デビュー当時は連勝記録で大きく注目していただきましたけど、棋戦での結果は残せていなかった面もあるので、朝日杯でトップ棋士の方々に勝つことが出来た経験は自分にとってとても大きなものでした」

 ―3月には杉本昌隆七段との師弟戦も実現して話題になりました(千日手指し直しとなった後、藤井が勝利)。

 「思ったより早く対戦することになって…。ずっと教えていただいて来たわけですので、師匠と公式戦の舞台で盤を挟むことが出来たのはうれしかったです」

 ―4月からは高校に進学しています。棋士業に専念する選択肢もあったと思いますけど、あらためて高校進学を決断した理由とは、どのような思いからなのでしょう。

 「学校に行くことで将棋の研究時間が限られてしまうということはもちろんあると思っていましたけど、一方で、学校に行かない選択をしたとしても、その時間を全て将棋に打ち込めるかどうかということは分からないですし、将棋のことだけを考えていても行き詰まってしまうのかなあと考え、進学しました。現状は学校と将棋とを良いバランスで出来ているという感じです。中学の時より(シードの関係などで)対局数は減りましたし、一日の中でもゆっくりする時はゆっくりしていますので…」

 ―高校の授業は中学とはもちろんレベルや内容が変化したと思いますが、いかがでしょう。

 「高校では中学よりも物事を深く知ることが出来るようになるので、自分にとって面白いといいますか、良い刺激になっているなあ、という気がします」

 ―とりわけ「世界史A」に熱心に取り組んでいると伺いましたが、特に興味のあるテーマは。

 「近代史など…米国独立のあたりからでしょうか。今の世界がどのような過程を経て創られてきたのかということを少しでも知ることが出来るので、面白いです」

 ―だいぶ気が早いですけど、大学進学のお考えなどは…。

 「現段階では白紙という感じです。早く決めずに、いろいろな選択肢を考えていきたいです」

 ―猛暑の夏を迎え、8月には、公式戦で初の対女流棋士戦として、里見香奈女流名人との一局がありました(熱戦になった末、藤井の勝利)。

 「ちょっと序盤で予定変更が重なって、悪い方向に行ってしまったなあと思います。持ち時間の配分の観点でもミスがあったのかな、と思いますし、大きな反省点を感じましたし、今後の課題だと思います。里見さんは女流棋界のトップですし、男性棋戦でも結果を残されている(今期7勝8敗)。素晴らしいことだと感じます。女流棋士の皆さんや、これから女流棋士になろうとしている方々にも勇気を与えている存在だと思います」

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