内田裕也さん、CM撮影で溺死寸前 演じ続けた「人生の悪役」繊細な一面も

スポーツ報知
報知映画賞表彰式に警察官の格好で登場した内田裕也さん(86年)

 ロック歌手の内田裕也(うちだ・ゆうや、本名・内田雄也)さんが17日午前5時33分、肺炎のため都内の病院で死去した。79歳だった。葬儀、告別式は近親者で執り行う予定。「生涯ロックンローラー」として数々の“伝説”を生み、刑事事件や都知事選出馬など、本業以外で話題になったことも。また昨年9月に死去した妻の女優・樹木希林さん(享年75)との夫婦関係は、奇妙かつ固い絆で結ばれていた。樹木さんとの別れから半年、後を追うように天国に旅立った。

 豪快なようで繊細、尖っているようであったかい人だった。

 長女の也哉子さんが本木雅弘との挙式を翌日に控えた1995年7月6日夜。「俺は反対だ」と伝え続けた一人娘の住む家に一枚のファクスが流れてきた。

 「ロックンロール、頑張れよ。裕也」

 当日、娘の晴れ姿を見守った後、報道陣に向かい「俺は人生の悪役を背負って生きてきた。今日はプッツンしてやりたかったぜ」とうそぶいた。晴れの日に酒の匂いはそぐわないと、断酒していたのに。

 「内田裕也」を演じ続けた人生だったのかもしれない。85年冬、米ニューヨーク・ハドソン川に背広姿でダイブするCMを撮影した日のこと。ディレクターが「もちろん下着は海パンで」と言うと「バカヤロ~! ロックじゃねえ! 俺は中途半端がキライなんだ!」と拒否。ブリーフ、靴下、革靴も着用して飛び込み、危うく溺死しかけた。

 弱い男の一面をのぞかせるのは、樹木さんのことを思う時だけだった。2005年5月、左目を手術した時の退院祝いに「残りの人生を大切に生きてください」とメッセージを添えられたカルティエの腕時計をもらったが、同年11月、空き巣被害に遭った。「初めてもらったプレゼントだったんだ…。本当に申し訳なくて…」と背中を丸めた。

 幅広い交友関係を振り返る企画の取材には「あまりにもウソのようなホントの話ばかりだから誰も信じてくれないんだよな」とぼやいた。ジョン・レノン、ミック・ジャガー、黒澤明、勝新太郎、高倉健―。マネジャーのかばんから、カンヌやニューヨークで映画が絶賛された時の新聞の切り抜きを取り出した。「報知の過去の記事も送ってくれよ。記録を残しとかないと、ただのロックンロールって叫んでるオヤジとしか思われないからな」

 型破りの行動力から問題作を送り出し、崔洋一、滝田洋二郎の両監督らを名匠に押し上げた。「そういう意味では経済的には成功しなかったけど、でもこれだけの名誉と夢、やりたいことばっかりやり続けてこれたっていうのは最高の幸せもんだと思いますよ」

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