•  若手の落語家、講談師11名からなるユニット「成金」の正体に迫る連載。読み応えたっぷりのインタビュー記事を随時更新していきます。ご期待ください。

【成金の正体】春風亭昇々、イケメン落語家が手作り“教科書”で歩むスタンダードの道のり(1)

2018年11月20日16時0分  スポーツ報知
  • インタビューに答える春風亭昇々(カメラ・越川 亘)

 「思い通りに落語をやりたいだけなんです。思ったように表現して、自由自在にできるようになりたいんです」落語家・春風亭昇々(33)はこう言った。つぶらな瞳と整った顔立ちで“イケメン落語家”と紹介されることが多い。

 「イケメンと言われることはどうでもいいですね。それによって『何だよイケメン落語家って』とか『そんなにイケメンじゃないじゃん』とか言われるんです。色んな人から言われるとショックを受けるんです。普通の顔の人は『変な顔だな』とか言われないじゃないですか。俺はその都度、色んな人から言われるんだって」と笑った。イケメンとして受ける取材も多い。「戦略的にやっていないです。ふざけてやっているところもあります。何でもいいやって」。女性ファンが多いことにも「本当はおじさんだとか、同世代の男の人に来て欲しいんですけど…」と話した。

■落語の“教科書”づくり

 昇々はコツコツと落語に向き合ってきた。手がける新作は骨太で、時折“狂気”も感じさせる。

 「ボクは落語が不得意なんです。前座さんの方が俺よりうまいときがあるし、うまく出来ない時もあるんです」と言い切った。二ツ目昇進直後、自身の高座を撮影してみた。「ビデオカメラを買って、撮ってみたら全然思っていたのと違う。上下が出来ていないし、びっくりするくらいヘタクソだった。(前座で)4年やってきてすべてが出来ていない。愕然(がくぜん)としました」頭の中で思い描いていたイメージとの大きな乖離(かいり)に戸惑った。

 先輩落語家の映像を研究した。「この人はマクラの時に0・5秒に1回首を振るけれど、何も言われていないからいいんだな」。細かい所作に自分なりの基準を決めた。「マニュアルが全部あります。どういう姿勢で座ればいいとか。座ってからどの位置に手を置く、どれだけひじを開く、肩を落とさないといけないとか」。上下ではどの場所に目線を向けるか、しゃべる時は眉間にしわを寄せないようになど、チェック項目をひたすらメモに起こした。自身の“教科書作り”だった。「みんなは頭で考えないで出来るんです。野球選手だって投げる時に“ひじの位置がここ”とか考えて投げていないと思います。でも自分は考えないと出来ないので…」。迷った時に立ち返る“原点”を記すことにした。

 「ボクは精神が弱いのでウケなくて、否定されると落語のやり方が分からなくなるんです」。2015年のNHK新人落語大賞の決勝だった。前に出た4人が緊張しながら高座を終えると、昇々は「俺を見とけ」と心でつぶやき自信満々に高座にあがった。結果は5人中最下位だった。「点数は低かったですね。独りよがりで、うぬぼれだったということですよね」。再び“教科書”に立ち返った。日々の高座で気がついたことをメモにして加えていたものを再確認した。翌年は1位タイの投票数を獲得。決選投票となり1票差で惜しくも大賞は逃したが、健闘を見せた。

■師匠・昇太との出会い

 大学4年になり、普通に就職活動をしようと思っていた時、春風亭昇太(58)の落語に出会った。友人から「面白いから」とビデオを貸してもらい読売テレビ「平成紅梅亭」での昇太の高座を映像で見た。「壺算」だった。落研に所属していた昇々は「古典落語は古くせえな、と思っていて好きじゃなかったんです」。だが、映像を見て面白さに笑い転げた。昇太が新作もやっていることもあり、入門を決意した。

 07年の正月初席だった。新宿末広亭の楽屋口で昇太の出待ちをした。出て来ると声をかけた。「すごく面白かったです」ずっと出待ちをしていたので当日の高座は見ていない。「関西から来たんです」とたこ焼きせんべいを差し出すと、昇太はファンだと思ったのか手ぬぐいをくれた。「師匠の性格を考えて改まった感じではなくニコニコと話しました」。しばらく会話を続けたが、どうしても弟子入りは言い出せなかった。

 2日後に再び訪ねた。「実は噺家になりたくて」と弟子入り志願をすると昇太は「連絡先教えて。連絡するから」。履歴書を渡した。1か月後に電話があった。「今、横浜の関内ホールにいるんだけど来られる?」。兵庫にいた昇々は新幹線に飛び乗り駆けつけた。 昇太は当時、弟子を取っていなかった。何人もの若者が志願に来たがすべて断っていた。三遊亭小遊三(71)に弟子を取りなさいと諭されていた。昇太は「面倒くさくて嫌だなと思ってみんな断っていたけれど、(小遊三)副会長から『お前も柳昇師匠に取ってもらったんだから、取らなきゃダメだ』と言われて、そうだなと思った」と当時を振り返る。「昇々なんて(入門志願が)その直後ですからね。タイミングが良かった」。昇々は自分の持っている運にも感謝した。「色々な偶然が重なったおかげですね」。

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