“迷走”すらも魅力的…オカダ・カズチカ、ただいま絶賛イメチェン中

スポーツ報知
20日の試合後、壁に手をついて「会心の勝利の時、人間っていうのは、こうして壁に手をつくんですよ」とうそぶいたオカダ・カズチカ

 新日本プロレスのオカダ・カズチカ(30)が大胆にイメージチェンジ中だ。

 入場時のトレードマークだったド派手なガウンに首から下げた巨大なアクセサリーを脱ぎ去り、シンプルな白のTシャツや黒のタンクトップでリングに向かってダッシュ。両手にはなぜ持っているのか不明な黄色や黒の風船を持って、ブルンブルンと振り回す。

 おなじみの入場曲も盛り上がるところで、いきなり耳障りな金属音を挿入し、観客をずっこけさせる。7日の米サンフランシスコ大会でお披露目されて以来の新パフォーマンスが、お約束となりつつある。

 新日にカネの雨を降らせる「レインメーカー」として団体を引っ張ってきた人気NO1レスラーを今年6月9日の挫折が変えた。最強外国人ケニー・オメガ(34)に前代未聞の時間無制限3本勝負、64分50秒の激闘の末に惜敗。2016年6月から2年間に渡って守り続け、連続防衛記録12回の新記録まで樹立した最強の証し・IWGPヘビー級のベルトを失った。

 2年前、約20年ぶりにプロレス取材の現場に戻った私にとって、初対面の時からオカダはチャンピオンだった。

 17年1月5日、東京・中野坂上(当時)の新日本社での初取材。オメガと45分46秒の激闘を繰り広げ、ベルト死守に成功した1・4東京ドーム大会の一夜明け会見のこと。あいさつ代わりに「オメガ戦は米国のプロレスマスコミも絶賛の世界的名勝負だった。そろそろ新日のエースと名乗ってもいいのでは?」と聞くと、オカダは「エースを名乗っている人(棚橋弘至)は他にいますから。僕は、みんなが最強と思ってくれていれば、それでいいです」と、さわやかに答えた。

 それから1年半。どの試合でも、オカダは常に腰に「KAZUCHIKA・OKADA」と刻まれたベルトを巻いていた。「もう、おなかに巻いているのが当たり前で、ないと寂しいんですよ」とも言っていた。

 リング上の戦いぶりも王者そのものだった。相手の技を受けて、受けて、受けまくった上での逆転のレインメーカー(短距離式ラリアット)で3カウント。試合後の「強すぎて、ごめんなさ~い」というおごり高ぶったマイク・パフォーマンス。場内には最強王者への反感か、いつしか判官びいきの相手選手へのコールが音量で勝るようになっていた。

 米トップ団体WWEで活躍中の中邑真輔(38)は7年前、オカダが新日に加入した時、こう言った。「おまえの身長は最大の武器だ。レスラーは身長1センチにつき、1000万円の価値があるぞ」―。

 その言葉通り、さわやかな笑顔にリングで映える191センチ、107キロの日本人離れしたルックス。この2年間、新日のと言うより、日本プロレス界最大のスターであり、宝だったオカダを取り巻く環境は6・9を境に暗転した。

 14日に開幕した真夏のシングル最強戦「G1クライマックス28」でも初戦のジェイ・ホワイト戦、2戦目のバッドラック・ファレ戦と、まさかの連敗。オカダは記者の前で「勝ちたい。やっぱり、勝ちたいよ」と本音を剥き出しに。「オカダが勝たないと、新日本プロレスを見ていても、つまらないでしょ」とも訴えた。

 そして大胆なイメチェンに打って出て、やっと白星も手にした。

 20日、東京・後楽園ホールでのハングマン・ペイジ戦。G1初出場ながら、その場飛びムーンサルトプレスにラリアットと抜群の身体能力で攻めてくるペイジに防戦一方のオカダ。「強すぎる」時代には決して耳にすることがなかった「どうした、オカダ~」というヤジまで格闘技の聖地にこだました。

 それでも、ペイジの必殺技ライト・オブ・パッセージをかわすと、ローリングラリアットからのレインメーカーで3カウントを奪取。試合後のリング上でマイクを持つと、「やっと、やっと、やっとの1勝で~す。余裕の勝利でしたね」と叫んだ後、荒い息を吐きながら「うれしい…。みんな、ありがとう」と、いきなり目頭をおさえた

 満場のファンが「オカダ、泣いている…」とざわつくと、泣きマネをやめて、いきなり笑顔満開。「まだまだ、G1は始まったばかり。しっかり優勝して(カネの雨を)降らせます!」と堂々、宣言した。

 バックステージに引き上げてくると、壁に手をつき、もたれかかったオカダ。「会心の勝利です。会心の勝利の時、人間っていうのは、こうして壁に手をつくんですよ」と、うそぶくと、「お待たせしました。G1の戦いを楽しみにしている人に、申し訳なくて泣きそうになりました。(2連敗は)申し訳なかったけど、ずっと、はまらなかったピースがやっと、はまった。待たせていたお客さんにも、楽しめてなかったお客さんにも、これから楽しんでもらいたい。頑張っていくのが、自分自身も楽しみなんで」と一気に続けた。

 「優勝をあきらめたなんて一言も言ってないんで。しっかり楽しんで、最後は勝ちます」と言い切った“絶対王者”の様子を早速、「スポーツ報知」のweb記事としてアップした。

 すると、集まったのは「入場もキャラも、マイク(パフォーマンス)もいろいろ試している期間なのかも知れないけど、迷走している感が否めない」という声の数々。

 プロレスファンは、わがままだ。勝ちまくっている時期には「強過ぎてつまらない」「どうせ、また、最後は勝つんでしょ」という声ばかりだったオカダを取り巻く環境も、また大きく変わりつつある。

 22日、オカダは東京・八王子大会での真壁刀義戦にも勝ち、「G1クライマックス」2連勝。なんとか星を五分に戻した。

 正直に言おう。2年間追いかけ続けてきた私には、例え「迷走中」と言われようが、試行錯誤中の今のオカダの姿にこそ、とても魅力を感じている。

 DA PUMPが“ダサかっこいい”「U.S.A.」で再ブレークしたように吹っ切れた明るさと常に勝ち続けていなければいけない「絶対王者」という重い十字架から開放された自由さと人間味が、その表情にあふれていると思うから。

 皆さんも、ちらりと弱みも見せつつ、大いにあがきつつ、復活ロードを歩もうとしている、その背中を追いかけてみませんか? どちらにしろ、今後10年間の日本のプロレス界を引っ張っていくのは、この男しかいないのだから―。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆オカダ・カズチカ 本名・岡田和睦。1987年11月8日、愛知・安城市生まれ。30歳。中学卒業後、陸上の特待生での高校進学を勧められるも闘龍門に入門。04年8月、メキシコでデビュー。07年8月に新日本プロレスに移籍。10年1月、米団体・TNAへの無期限武者修行に出発。11年12月に「レインメーカー」として凱旋帰国。12年2月、棚橋弘至の持つIWGPヘビー級王座に初挑戦。レインメーカーで勝利を飾り、中邑真輔に次ぐ史上2番目の若さとなる24歳3か月で王座についた。2度の陥落を経て、16年6月から18年6月9日、大阪城ホール大会でケニー・オメガに敗れるまで史上最多となる12連続防衛を果たした。12年、14年にはG1クライマックス優勝。191センチ、107キロ。

格闘技

×