KIDさんが貫いた「正々堂々」 魔裟斗さん「愛してる」

スポーツ報知
魔裟斗(左)を攻める山本KID徳郁さん(2004年12月31、大阪ドームで)

 その約束は、果たされないままになってしまった。元格闘家の魔裟斗さん(39)は、今月18日に他界した山本KID徳郁(本名・岡部徳郁=おかべ・のりふみ)さん(享年41)と「一杯行こうよ」と約束していた。15年大みそか、共に一夜限りの現役復帰マッチを戦った後のことだった。20日に自身がパーソナリティーを務めるニッポン放送「笑顔のミナモト」収録後に取材に応じ、「何と言っていいか分からない。まだ生きたかっただろうし、KIDは相当悔しかったと思う。また拳を合わせるというよりは、違った形でお酒でも飲みたかった」と、早すぎる別れを悔やんだ。

 「今度、一杯行こうよ」。日頃、何気なく使う言葉だろう。互いに元気で再会できることを、少しも疑わずに。今年1月に仕事で会った時は「全く病気っぽいそぶりはなかった」。4~5月頃に会った時、妙な違和感を感じた。試合に向けた減量でもないのに「急に痩せて、どうしたのかと思っていた」。夏に入ると、がんの病状が重いことを人づてに聞いた。そして、訃報に接した。「マジか…という感じ。僕が(がんと)聞いて2か月ちょっと。こんなに早くっていうか…」。言葉が見つからなかった。

 伝えたいことは、たくさんあった。「(KIDさんは)総合格闘技の選手だから、もっとタックルとかをやるかもと思ったけど、正々堂々戦ったのをよく覚えている。正面からぶつかってきた」。拳を合わせたからこそ、裏表のない性格はひしひしと伝わってきていた。東京・駒沢公園をジョギングしている時に偶然出会い、子供と無邪気に遊ぶKIDさんの姿を目にしたこともある。「戦った時の顔より、笑っている顔しか思い浮かばない」と故人をしのんだ。

 魔裟斗さんはこの日、何度となく「また、KIDさんと戦いたかったか」という旨の質問を受けた。その度に「戦うというより、昔の話をしながら楽しく一杯飲みたい」「10年後(に戦うの)は、子供達同士でいいんじゃない? という話はしていた」などと返した。決して、戦いたいとは言わなかった。再起を信じ、がんと闘い続けたファイターを悼む場。もう戦わなくていい、ただ安らかに眠ってほしいと願っているようだった。「心の中で、『愛してる』と語りかけようと思う」。魔裟斗さんの目には、光るものがこみ上げていた。(細野 友司)

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