宇佐美貴史、ギラついた感情をコントロールしプレーもメンタルも成長…代表候補5人連続インタビュー第3弾

スポーツ報知
3月28日の国際親善試合マリ戦での宇佐美(中央)

 サッカーのロシアW杯日本代表候補選手の5日連続インタビュー第3弾は、FW宇佐美貴史(26)=デュッセルドルフ=を直撃。ドイツで計5シーズン目となる今季、2部とはいえ8ゴールの活躍を見せてチームの1部昇格&優勝に貢献。ロシアでの活躍も期待されるアタッカーが、自身の中に生まれた変化やW杯への思いを明かした。(取材、構成・金川 誉)

 ロシアW杯を目前に控える今季、宇佐美はドイツで初めてと言える充実のシーズンを送った。さらに、日本代表にはかつての恩師・西野朗監督が就任し“風が吹いている”ようにも見える。5月上旬。デュッセルドルフでの練習後、取材に応じた宇佐美はいたって冷静だった。

 「西野監督になったからといって、まったくアドバンテージはないでしょ。当落線上だと思っていますし。(西野監督を)知っているといっても前の話。僕自身も変わっているし、西野監督も変わっているというか、違う監督になられているやろうし。メリットだと感じたことはないです」

 西野監督に指導を受けたのは17歳からの約2年半。当時、攻撃面できらめく才能を見せる一方で、体の線が細く守備面に多く問題を抱えていた宇佐美にチャンスを与えた。そんな10代での日々から数々の経験を積み、現在は2児の父でもある26歳となった。

 「サッカー選手としても、人間としてもだいぶ変わっているとは思います。守備でもタフにやれるようになっている。もちろんボールを持っていればアイデアは出しやすいけど、相手が保持している中でもタフに戦って守って、そこから(攻撃に)出ていくという力も、当時に比べればついてきていると思います」

 プレーだけでなく、メンタル面でも成長を遂げていた。

 「2度目(2016年)にドイツに来た後、(試合に出られず)オレってこんなもんやなと痛感させられた。今まではそれをかみ砕けないから出てくるハングリー精神があったと思うけど、一方で自分自身を苦しめている部分もあった。そうじゃなくて、自分の小ささや限界を見定めた中で、進むべき方向を見定められるようになった。大人になった? ひと言で言えば、そうですね」

 Jリーグ時代は屈指の得点力と技術を見せたが、ドイツでは環境、チーム状況、さまざまな要因が重なって結果を残せない日々が続いた。そんな中で、感情をコントロールしていく術(すべ)を身につけていった。

 「自分自身をしっかり見つめる。それが大人になるということ。例えばスタート(先発)から外された時、ふてくされるぐらいの感情は持っていたし、それがなくなることの怖さがあった。もちろん今もそういう感情はあるけど、それをかみ砕いて、やるべきことを集中してやろうと考えられるようになった。感情を抑えていけるようになった」

 西野監督は6日のデュッセルドルフ―キール戦を現地で視察。その際には、宇佐美をサイドではなく、トップ下など中央のポジションで起用したいというアイデアも明かしていた。

 「ポジションに関しては監督が決めること。守備的にやるのかな、というイメージは少しある。僕が入る、入らないかかわらずです。でも真ん中、10番のポジションをやりたいという気持ちはありますね」

 ロシア大会に出場すれば自身初のW杯となる。

 「W杯は自分の中で成長できるきっかけになる。大きく成長する選手もいれば、逆に出られなくて悔しさを得て成長する選手もいる。近くで見ていて、ヤットさん(G大阪MF遠藤保仁)がそうだった。(06年)ドイツW杯で出られなくて、次の大会(10年南アフリカW杯)までハイパフォーマンスをキープして結果を出した。そこで得られるものは大きいと思うし、だからこそ出たい。選ばれたら光栄ですけど、選ばれなくても精神的にブレはないと思います。これからも、常にできることをやり続けることが大事だと思っているので」

 ◆遠藤とW杯 2006年ドイツ大会で初のメンバー入りを果たしたが、フィールド選手で唯一出場なしに終わった。10年南アフリカ大会では1次リーグのデンマーク戦で直接FKを決めるなど、レギュラーとして活躍し16強進出に貢献。14年ブラジルW杯にも出場した。国際Aマッチ出場152試合は歴代最多。

 ◆宇佐美 貴史(うさみ・たかし)1992年5月6日、京都・長岡京市生まれ。26歳。G大阪ユース在籍中の2009年、高校2年でトップチームに昇格しプロ契約を結ぶ。10年にJリーグのベストヤングプレーヤーに選出。11年にドイツ1部の名門・バイエルン、12年にホッフェンハイムに期限付き移籍。13年にG大阪へ復帰し14、15年はJリーグベストイレブン。16年にドイツ1部アウクスブルクへ完全移籍し、今季は同2部デュッセルドルフに期限付き移籍。日本代表通算21試合3得点。

 ◆取材後記

 G大阪担当として長く宇佐美を取材したが、再会は約2年ぶり。デュッセルドルフの練習場にアポなしで訪れた私に、「ちゃんとアポを取ってから来てください。それならいくらでも話しますから」と困惑しながらも、今回だけという約束で取材に応じてくれた。10代の頃はとがった印象が強かったが、大人になった印象を受けた。

 感情をコントロールできるようになった部分を、「それがいいのか、悪いのかはまだ分からない」と語っていた。かつてのようなギラギラした感覚を失うことを恐れているように感じた。だが、選手として、新たな階段を一歩上ったことは間違いない。W杯メンバーに選ばれれば、刺激を糧にさらに飛躍できるはずだ。(G大阪担当・金川 誉)

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