C大阪・杉本、アンプティサッカーW杯代表の少年と魂のパス交換…ユニホームに記した熱い言葉とは

スポーツ報知
ACLで着用したユニホームをプレゼントするC大阪の杉本(右)とアンプティサッカー日本代表の近藤碧くん

 7月某日、真夏の暑さに包まれたC大阪の練習場でハートフルな場面に立ち会った。

 主人公は近藤碧くん(14)、大阪市内の中学に通う3年生である。笑顔が愛らしいC大阪ファンのサッカー少年だ。見た目はどこにでもいる中学生だが、ひとつだけ違った部分がある。小学6年生の時にサッカーの大会に自転車向かう途中、車との交通事故に巻き込まれ、左足の膝から下を失った。松葉杖と義足を手に、この日は夏休みを利用して大好きな元日本代表FW杉本健勇(25)に会いに来た。パス交換をするためだ。

 実はこの碧くん、小学1年でサッカーを始め、所属していた「大阪市SS白鷺ジュニア」ではエースとして将来を期待されていた選手だった。しかし事故に遭い、悩んだ末に選んだ道は主に上肢、下肢の切断障害を持った選手がプレーするアンプティサッカー。中学2年で始め「サッカーとあまり変わらない。スピードも速かったしビックリした。めっちゃ楽しかった」と夢中になった。現在はもともといたチームでプレーを続けながら、月に2回ほど大阪府内のアンプティサッカーのチームで練習に励んでいる。

 今年の6月には10月に行われる「アンプティサッカーワールドカップ」の代表候補合宿に招集され、見事代表の座を勝ち取った。40代の選手もプレーする中でチームでは最年少の選出である。そんな知らせを杉本が最初にサッカーを始めた「ルイ・ラモス・ヴェジット」の金尚益(キム・サンイク)監督(60)が耳にし、何かできることはないか杉本に相談。杉本も「俺、何でもするから」と返事をし、今回の夢のパス交換が実現した。

 練習後、杉本がスタンドにいた碧くんのもとにやってきた。そして二人で隣接するグラウンドへ向かい、待ちに待ったときがやってきた。杉本が丁寧なパスを送れば、碧くんも真剣なまなざしで右足を振り抜く。時折笑顔も交えながら、特別な言葉はなくとも、心で通じ合っている、そんな風にも見えた。そんなかけがえのない時間を二人のすぐ近くで見守った母の恵さん(39)も感無量の表情を浮かべていた。

 約10分間のパス交換を終えた後は、杉本から碧くんに今年のACLで着用したユニホームがプレゼントされた。そこにサインとともに書かれたメッセージは「あおくんへ お互い世界へ羽ばたこう」。それを見た碧くんは「うれしい」ととびっきりの笑顔を見せた。今年のロシアW杯の日本代表に落選し、悔しい思いをした杉本だったが「僕より先にW杯にいくんでね、僕もいけるようにならなアカンな」と碧くんの一生懸命な姿を見て、改めて4年後への思いを強くしたようだった。

 パス交換だけでなく、この日2人はたくさん話をした。アンプティサッカーのこと、お互いのこと…。別れの寸前までクラブハウスの横に2人で座り、真剣な様子で話し込んでいた。杉本は碧くんとの出会いを「出会わなければどういうルールでやっているのかも分からなかった。そういう話をして、普通にサッカーをできているのがどれだけ幸せなのか、勇気というかパワーを逆にもらったんで、明日から今の状況がどれだけ幸せなのか感じながらプレーしたい」と話した。

 さらに「10月のW杯をぜひ注目してもらえたらなと思います。メキシコまでは行けないけど、僕も練習とかを見に行こうかなと思っています」と呼びかけ、碧くんも「ドリブルでいっぱい相手を抜いたり、アシストとかしたい」と大舞台での活躍を誓った。いろんな思いが詰まったパス交換には、見ているこっちまで胸が熱くなった。

(記者コラム・サッカー担当・筒井 琴美)

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