17日にJFLが開幕 鈴鹿の女性指揮官、ミラ監督が描く日本での新たな夢とは

スポーツ報知
JFL鈴鹿のミラグロス・マルティネス・ドミンゲス監督

 17日に開幕するJFL(日本フットボールリーグ)で、女性監督が采配を振るう。今季初昇格のシーズンに臨む鈴鹿アンリミテッドではスペイン人のミラグロス・マルティネス・ドミンゲス監督(33)が就任。Jリーグを含めても初の女性指揮官となった“ミラ監督”にインタビューした。(取材・構成=筒井 琴美)

 記念すべきJFL昇格1年目の鈴鹿を率いるのは、Jリーグを含めても初の女性監督だ。前監督の任期満了に伴い、クラブでは「新しいチャレンジ。男性に限定しなくてもいい」(クラブ広報)と、グーグルで「サッカー 女性 監督」とネット検索するなど後任人事に着手。代理人を通じて白羽の矢が立ったのが、欧州サッカー連盟(UEFA)の最高位プロライセンスを持つミラ監督だった。

 「昨年12月20日ぐらいに話が来て、10日ぐらいメールでやり取りする時間があり、決めました。海外で指導している友達の影響で、他の国でやってみたいという思いがずっとあった。男子のトップチームでというのも前から考えていた」

 日本どころかアジア自体、足を踏み入れるのは初めてだそう。指揮して1か月が過ぎた今、日本サッカーにどんな印象を抱いているのか。

 「日本の選手はテクニックがあって、欧州のサッカーに適応する能力が十分にあるのを感じました。驚いたのは選手がこの練習は何のためにやっているか、どうしたら良くなるのかを理解しようとして動いていること。レベルの高さにはビックリしたのもあって開幕が楽しみです」

 兄弟の影響もあって、物心ついたときからボールを蹴っていた。大学から本格的にセンターバックとしてプレーを始め、卒業後はスペイン2部リーグでも活躍。引退後にアルバイト感覚で始めたのがコーチ業だった。

 「最初は小さい子どもたちを教え始めて、そしたらだんだん楽しくなってきて。サッカーを知るのは昔から好きだったし、自分がプレーしていた時からもっとこうしてって仲間に話していたので、教えるのが好きな部分はあったんだと思います」

 2013年から監督を務めたスペインのアルバセテ・バロン・ピエの女子チームでは1年で1部昇格するなど、順調にキャリアを重ねてきた。まだまだ少ない女性監督の先頭に立ち、希望を与えることが目標だ。

 「心がけているのは選手と一番近い距離にいること。あとは自分が一番上に立つのではなく、あくまで選手、チームのひと部分ということ。全部指示するのではなく、選手と作り上げていくことを理想としています。こっちに来てからも、選手のみんなからのリスペクトは感じるので自分が女性でも全然問題はない」

 2月に都内のスペイン大使館で開催されたパーティーでは、鳥栖のFWフェルナンドトーレスやC大阪のロティーナ監督など、日本を拠点にするスペイン関係者と交流する機会にも恵まれた。神戸のMFイニエスタやビジャも含め、Jリーグでは「スペインの風」が吹いている。

 「こっちに来るスペイン人はみんな日本の食べ物や文化が好きなので、お互いにとって良いことだと思います。日本人はすごく教養がある。時間を正確に守ったり、たくさん仕事をする、仕事に真面目なところはスペインと大きく違います。そこが皆さん良いと言っている理由だと思います」

 ミラ監督も三重での生活にすっかり慣れたという。

 「町の人や日本の食べ物がものすごく気に入っていて、文化を知るたび日本がもっと好きになっています。食べ物だとウナギ、ラーメン…あとオデンは初日に食べました。寿司も試してみたい。テレビの撮影で伊勢神宮には行きました。その前に神社にも行って、そこで初めてご祈祷をやってもらったんですが、すごく特別な体験をできました。大きな休みがあれば大阪や京都、東京にも行ってみたいです」

 サッカー以外の時間はどう過ごしているのか。

「買い物に行ったり、ご飯を作ったり、友達を話したり…。スポーツを見るのはもちろん好きで、スポーツだったら言葉が分からなくても見れるので、こっちでも見ています」

 今回は、母国に家族を残して単身で来日した。明るいキャラクターが魅力的なミラ監督だが、理想の男性のタイプはあるのだろうか。「情熱の国」のスペイン人らしい?答えが返ってきた。

 「自分にも人にもリスペクトがあって仕事が好きな人、空いた時間に何か楽しめる人がいいです。でも恋だからいつ始まるか分からない。スペイン人でもイタリア人でも米国人でも、相手が誰かも分からない(笑い)」

 最後に今季の目標を、と尋ねると、それまでの素敵な笑顔をグッと引き締め、力強く語ってくれた。

 「参入初年度なので、そんな簡単にいかないと私も思ってます。(16チーム中)6位か7位に入るのが1年目で成功と言えるんじゃないかと思います」

 真剣に、でも時に笑いも交えながらひとつひとつの質問に丁寧に答えてくれたミラ監督。その希望と野心に満ちた姿はキラキラしていた。開幕戦は17日、MIOびわこ滋賀と敵地で激突する。同じ女性としても、JFLという新天地での大暴れに大いに期待したい。

 ◆ミラグロス・マルティネス・ドミンゲス>1985年4月23日、スペイン・クエンカ県出身。33歳。カスティーリャ・ラ・マンチャ大学で本格的にサッカーを始め、2005年から同国女子リーグ2部のフェメニーナに所属。09年から同チームの下部組織などを指導。家族は両親と兄2人と双子の弟。

 ◇各競技の男子トップリーグでの主な女性監督

 ▽サッカー イースタンSC(香港)のチャン・ユエンティン監督は15年に就任し、16年には21季ぶりの優勝に導く。男子サッカーのトップリーグで優勝した世界初の女性監督として、ギネス世界記録に認定。女性監督として初めてACLの舞台にも立ったが、さらなる経験を積むため17年途中に辞任。

 ▽バスケットボール bjリーグ(現Bリーグ)・埼玉でアシスタントコーチを務めていた日系米国人のナタリー・ナカセ氏が11年、監督に昇格。翌年に契約満了で退任した。

 ▽ハンドボール トヨタ紡織九州を率いる韓国出身の金明恵監督は、日本リーグ男子で初の女性監督。15年から女子の広島で指揮を執り、18年に就任した。

 ◇鈴鹿アンリミテッドFC 三重県鈴鹿市をホームタウンとするサッカークラブ。2009年、名張市が拠点の「三重FCランポーレ」と鈴鹿市が拠点の「鈴鹿クラブ」が合併して誕生。10年から地域リーグの東海リーグ1部に所属し、4度優勝。昨年全国地域チャンピオンズリーグで2位に入り、JFL昇格。本拠地はAGF鈴鹿陸上競技場。

◇JFL(日本フットボールリーグ) 日本サッカーリーグ(1965~92年)、ジャパンフットボールリーグ(92~98年)の後を継ぐ形で、99年にスタート。3部で構成されるプロのJリーグとは異なり、アマチュア最高峰としてJリーグ入会を目指すクラブ、企業チーム、地域のアマチュアクラブなど16チームが参加。

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