【二宮寿朗の週刊文蹴】メッシ“我が、まま”芸術ループ弾

スポーツ報知

 あまりに美しいゴールに鳥肌が立った。

 17日のスペイン1部ベティス―バルセロナ戦、後半40分にメッシがハットトリックを達成したループシュート。左足ワンタッチでバックスピンをかけて蹴ったボールはGKの頭上を越え、バーをかすめてゴールに飛び込んだ。まるでゴルフのチップインを見ているような気分だった。これには敵方のベティス・サポーターまでも立ち上がって拍手を送っている。芸術に、味方も敵もないのだ。

 メッシのシュートもさることながら、ラキティッチの“優しいパス”が心に刺さった。左CKからのこぼれを拾い、ラキティッチがメッシからのパスを受け取った時点でペナルティーエリア内は相手より1人多い状況だった。ラングレは裏に出ようとして相手を引きつけ、中央にはスアレスが待つ。そこでラキティッチは後方から出てくるメッシにサッと戻したのだ。彼のループシュートをイメージできていたからこそのパス。ラングレやスアレスを含めた周りも「美しいループ」の共同制作に関わっていた。

 以前聞いた木村和司さんの言葉を思い出した。10番のプレーとは何かをテーマにインタビューしたとき、日本のレジェンドはこう語った。

 「“ワガママ”と“我が、まま”は違うんよ。周りがいるから自分が生きるっていうことを分かっていないと単なる“ワガママ”になって、周りはきっと知らん顔する。それを分かっているヤツは、周りを大切にする。だから“我が、まま”でやれる。ワシも日本代表のときに、周りから『ディフェンスは無理せんでええから前のほうで仕事してくれ』と。自由にやらせてもらえる感謝はあったし、その分『やってやろう』って思えたから」

 周りを大切にするから、大切にされる。メッシと抱擁するラキティッチのほうが何だかうれしそうに見えてくる。おっと、また鳥肌が立ってきた。(スポーツライター)

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