卓球・Tリーグ 24日開幕 松下浩二チェアマン「育成と強化を結び付ける」

スポーツ報知
卓球Tリーグのユニフォーム発表会に出席した(左から)吉村真晴、張本智和、上田仁、丹羽孝希、浜本由惟、エリザベタ・サマラ、平野美宇、加藤美優

 卓球の「Tリーグ」が24日に開幕する。トップ選手の強化だけでなく、育成や普及も理念に掲げたプロアマ混在の新リーグの誕生は、2020年東京五輪に向けて盛り上がる卓球界にとっても大きな一歩だ。立ち上げに尽力してきたTリーグの松下浩二チェアマン(51)と卓球ファンの報知新聞社・早川正会長が対談し、Tリーグの魅力や未来について語り合った。

 早川(以下、早)「いよいよ開幕ですね。将来構想では、トップ級から趣味で卓球をやる地域リーグまで6階建てぐらいの組織。今回はその頂点に立つ『Tリーグプレミア』のスタートですが(男女それぞれ)4チームに絞りました」

 松下(以下、松)「6チーム程度でいきたいというところはあったんですが、戦力に差が出る。4チームぐらいなら拮抗(きっこう)して面白いゲームをお見せできるかと」

 早「トップリーグのレベルを考えた?」

 松「そうですね。将来、チーム数を増やす場合も、そこは大事にしたいと思います」

 早「これまで各チームが確保した選手ですが、最低1人は直近2年で世界ランク10位以内という基準などから見てどれぐらいのレベル、戦力という採点でしょう」

 松「世界ランクトップ10が各チームにいる。どこの国を見ても、そんなリーグはありません。中国のレベルは高いですが、国際大会に出ていない選手が多い。Tリーグは世界ランク上位者が一番集まっている世界一のリーグと呼べるんじゃないかと」

 早「去就が注目された石川佳純選手の参戦表明で、男女とも国内のトップがほぼ出そろい、アジアの強豪もいる。あとは中国と欧州の強豪の参戦ですね。先々に向けた手応えは」

 松「既に話を進めている欧州の選手も多いんですよ。欧州の契約は単年ではなく複数年が多くて。行きたいけど、最初のシーズンは行けないという選手が多い。(来年度以降は)また、いろんな国の選手が入ってくると思います」

 早「それは楽しみですね。試合の方式は個人戦ではなくて団体戦。スポーツ報知は2014年に世界卓球選手権(団体戦)の東京大会を後援しましたが、確かに団体戦は見る側からすると手に汗握るし、応援も盛り上がります」

 松「よく個人競技と言われるんですが、卓球って意外にチーム戦が盛り上がる競技なんですよ」

 早「私は松下さんと知り合って10年ほどですが、当初からプロリーグの構想を熱く語っていましたねえ。そのことが強く印象に残っています。あれから随分時間がかかりました」

 松「今思うと、長いとは感じていないですね。たしかにいろんなことが毎回起こり、問題解決に時間を費やしましたが、自分としてはあっという間でした」

 早「現存する日本リーグとの調整は大変だったでしょう。12年ロンドン五輪で女子が銀メダル、リオ五輪も男子銀、女子が銅と好成績。ジュニア育成はJOCエリートアカデミーがある。今の枠組みで十分じゃないか、という声が卓球界の一部に根強くありましたから」

 松「男女とも世界で(チーム)ランク2位まで来ました。しかし、1950年代から30年近く世界のトップクラスにいた日本は一度、12位や13位まで落ちたことがある。それは海外が強くなる仕組みを作ってきたからです。今の日本は個の力、例えばお母さんが3歳から付きっきりで厳しく教えてきたような人が育っている。そういう血眼になってやる親御さんがいなくなった瞬間、僕は日本の卓球は弱くなると思います」

 早「今のブームを作った福原愛、石川佳純、水谷隼、張本智和選手。みんな親の熱心さ、海外武者修行など個人の血のにじむような努力で地位を築いた人ばかりですね。そして選手のセカンドキャリア。卓球で経済的にも豊かになろうという夢が絶対必要ですね。今回の目的の一つなんでしょう?」

 松「そこは大きなところですね。自分自身(セカンドキャリアは)微妙だな、と思いながらやってきました。選手を引退した後にマネジメント会社で水谷をサポートしたり、卓球メーカーを買収して社長になったりしたんですが、思ったほどの貢献ができなかった。選手が卓球を通じてやってきたことを将来、生かせる仕組みを作っていかなければと思います」

 早「松下さんは2009年、経営に苦しんでいたヤマト卓球の社長に就任し、業績も伸ばして現在の『VICTAS』に再生させた。そちらの道もあったと思いますし、何と言っても選手として明治大、協和発酵キリン、欧州参戦とキャリアも華々しい。強豪チームのコーチや監督、日本代表の指導者、日本協会首脳部と、じっとしていても道は開けたのでは(笑い)」

 松「そこのところはよく分かりませんが、日本のためになることをやらなければと。確かに社長をやっていた方が楽です。誰も私に文句を言わないですし(笑い)。Tリーグ事業は、いろんな方々を巻き込んでやっている責任がある。最初はうまくいかないことばかりでしたが、中国みたいに世界のトップに君臨できる仕組みをなんとか日本で作りたいという一念ですね」

 早「強くなったと言われる日本ですが、世界選手権シングルスは女子は12大会、男子も7大会連続で中国同士の決勝戦が続いています。打倒・中国のためTリーグはどういう役割を果たしていきますか」

 松「Tリーグのルールの中に、全チームに6歳以下の卓球教室を必ず作ることを組み込んでいます。3歳や4歳からスタートする中国と同じような環境です。強くなれば小学生でもプロの選手と練習ができる。トップの選手たちはナショナルトレーニングセンター(NTC)で練習の質を高め、それ以外の選手はTリーグのチームで育ち、ナショナルチームをめざしていく。育成と強化を結び付ける役割だと思います」

 早「そのためにも興行的に成功が求められる大事な1年目ですが、見せる卓球ということで(試合形式が)1ダブルス3シングルス、プラス延長戦。各マッチの最終ゲームは6―6でスタートとなかなか面白い仕掛けですね。ほかにもあるのですか?」

 松「レベルの高い試合を見せ、楽しんでもらうのが基本です。例えばゲーム間の演出。音響を使って楽しませたり、終わったらファンにサービスできるようなものを提供できれば。試合は真剣勝負、それ以外の時間は音と光と映像で。卓球は静かじゃないとプレーができないなんて言われますけど、僕はこだわらなくていいと思います」

 早「卓球人口は800万人とも900万人とも言われますが、日本卓球協会登録の競技者は35万人。増えていますよね。特に小学生は前年比で2割増と聞きました。最近の選手を見ていると、みうみまひな(平野美宇、伊藤美誠、早田ひな)にしても、(福原)愛ちゃん、(石川)佳純ちゃんにしても、我々の年代が子供や孫にしたいと思うような(笑い)人ばかりですよ。張本くんはNTCでの練習に一番早く来て、卓球台の拭き掃除をやっている模範生らしいですね。勉強も成績優秀。こういう存在が子どもたちの登録の増加を招いている」

 松「彼はすごい。勉強もできて人間的にもしっかりしていて、卓球も強い。理想形ですよね。張本はそういうキャラクターでいいし、みんなが同じタイプの人間じゃなくてもいいと思っています。みんなが自分が持っているキャラや個性を、卓球や社会に生かしていける。そうなってほしいですね」

 早「そういういい流れが、Tリーグでどんどん加速していくことを願っています。頑張ってください」

 ◆松下 浩二(まつした・こうじ)1967年8月28日、愛知・豊橋市生まれ。51歳。小学3年で卓球を始め、愛知・桜丘高、明治大を経て協和発酵(現協和発酵キリン)に入社し、92年バルセロナ五輪に出場。93年に日産自動車へ移籍して日本初のプロ選手。97年には世界選手権男子ダブルスで銅メダルを獲得。日本人として初めてドイツ・ブンデスリーガに参戦した。五輪は2004年アテネ大会まで4度出場。09年1月に引退。18年7月にTリーグのチェアマンに就任した。

 ◆Tリーグ 男女4チームずつが参加。レギュラーシーズンは19年2月まで7回戦総当たりで各チーム21試合を行う。来年3月に上位2チームによるファイナルを行い、勝者が優勝。男子はT.T彩たま、木下マイスター東京、岡山リベッツ、琉球アスティーダ。女子は木下アビエル神奈川、TOP名古屋、日本生命レッドエルフ、日本ペイントマレッツ。

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