レジェンド・大神雄子さんとエース・落合知也が史上最強ジャパン語る「男女BIG3が躍進の鍵に」

スポーツ報知
東京五輪の「T」ポーズを作った大神雄子氏(左)と落合知也

 米女子プロバスケットボールリーグのWNBAでもプレーした元女子日本代表で、日本協会アンバサダーの大神(おおが)雄子氏(36)が、男女5人制代表の20年東京五輪での可能性に言及。ともに「BIG3が躍進の鍵になる」と強調した。新種目の3人制はコーチを務める大神氏と、男子代表のエース・落合知也(31)が初代王者への意気込みを語った。(取材・構成=小林玲花)

 5人制男子代表は身長203センチの八村塁(20)=米ゴンザガ大=、同206センチの渡辺雄太(24)=メンフィス・グリズリーズ、同210センチのファジーカス・ニック(33)=川崎=の「BIG3」が加入して別のチームに生まれ変わった。

 19年W杯(8~9月・中国)の出場権をかけたアジア予選では、0勝4敗から3人の加入で6連勝。世界ランク10位のオーストラリア、同26位のイランも破った。FIBA(国際バスケットボール連盟)から「日本の取り組みに満足している」と認められ、東京五輪の開催国枠獲得にも前進している。変貌を遂げた理由は、センターポジションを置かず全員が複数のポジションをこなすプレースタイルだ。

 大神氏「バスケは時代によってスタイルが違う。それが象徴されているのがNBA。今のNBAではストレッチ4(よりガードに近い、センターやパワーフォワード)という戦術の呼び名も生まれたほど、ポジションごとの仕事の差はなくなってきている。今は2点シュートより3点シュートの試投数が上回る時代。BIG3はゴール下の動きやリバウンドもこなしながら、外角からのシュートも入り複数の役目を果たせる。確かに、NBAに近くなっていると感じる」

 男子は当初、世界ランクが低く開催国枠の獲得が危ぶまれた。19年W杯で16強入りするなど、世界と戦える力をアピールしなければいけなかった。W杯アジア1次予選では格下の台湾に1点差で敗れるなど敗退危機に追い込まれたが、奇跡的なV字回復を果たした。

 「BIG3がそろったら、W杯の過去最高(11位)成績も出せる可能性も十分にあると思う。まだ3人そろった試合はなく、そのときこそ『俺たちは強いんだ』と思える。これまで日本はトータル的に(体格で)劣っていたが、3人の加入で今では一つの武器になっている。彼らの存在は他の選手にも刺激を与え、いい化学反応が起きている」

 男子は40年以上も五輪に出場しておらず、経験面で大きな課題があると指摘。W杯も開催国枠で出場した06年大会を除けば、1998年大会から自力出場できていない。

 「私もアテネ五輪に出て感じたが、東京五輪の前に自分たちの立ち位置を知ることが大切。(五輪が)ぶっつけ本番になるより、W杯で一度自信をつけることもできる。まずは、アジア2次予選で残る2試合(2月21、24日)に勝利し、W杯に出ること。自力で出ることが何よりも次のチャンスにつながる」

 強豪との真剣勝負が実現する19年W杯が、東京五輪への試金石になる。

 -3人制が五輪種目に決定して2年が経過した。周囲の反応は。

 落合「大会の数が増えた。競技者も増えているし(5人制の)Bリーグの選手も興味を持ってくれている。五輪っていうのは本当に大きな大会だと実感した」

 大神氏「選手の意識が一番変わった。5人制だけだったのが3人制も増えて、五輪に出られる可能性が高まった。Wリーグの選手が3人制の動画を見たり、いろいろ聞いてくることも増えた。それだけ興味を持ち始めたことも事実」

 -男子は18年アジア杯で銅メダル。女子は18年ジャカルタ・アジア大会で銀、同年のU23W杯は5人制選手が中心で銀メダルを獲得した。ここから五輪でのメダルにつなげるには。

 落合「アジアではメダルが取れているけど、世界選手権では予選敗退。(強豪の)ヨーロッパ勢にどう勝てるかを考えないといけない。3人制にどれだけレベルの高いプロ(Bリーグ選手)を呼ぶことも課題。今は合宿にBリーグの選手が参加することも増えたが、呼ぶだけじゃなく3人制にどれだけ費やしてくれるかという環境をつくることも課題。同じメンバーで連係を高めて突き詰めていかないといけない」

 大神氏「女子はまだまだ無知な選手が多い。ルールがあいまいの中でやっている選手もいる。しっかり強化方針を立てて、とにかく経験を積む。Wリーグは期間が短く(10月~3月)オフが長いので、そこで3人制の大会に5人制の選手を参加させることも考えていくべき。5人制と3人制を完全に分ける必要もないと思う」

 ―初代王者への意気込みを。

 落合「海外のさまざまなツアーを参戦してきた中で、シュート精度の課題を克服できれば表彰台や金メダルも取れると思う。何をしないといけないかは明確になっているし、自信もある」

 大神氏「銀メダルを取ってきた中で、次に目指すのは金メダル。女子のシュート力の高さは世界にも証明できている。全員が『次は金メダル取るんだ』と強い気持ちで取り組んでいきたい」

  5人制の女子代表は、五輪6連覇中の米国の力が飛び抜けているが、2位以下は実力が拮抗(きっこう)している。日本はアジア杯3連覇中、リオ五輪8強、18年W杯16強。世界のトップに食い込んでおり、メダルを取るだけの実力は十分にある。

 大神氏「もちろん金メダルを狙ってほしいが、銀メダルの可能性は高いと思う。女子の目指すところはトランジション(攻守の切り替え)で勝つこと。ただ、今は他国も日本の速さに近づいている。その中で、さらに+αを得ないといけない」

 女子にも男子同様に「BIG3」が出現した。身長193センチの絶対的エース・渡嘉敷来夢(27)=JX―ENEOS=、センターの高田真希(29)=デンソー=、急成長中のシューター・宮沢夕貴(25)=JX―ENEOS=だ。

 「渡嘉敷は誰もがキーマンに挙げる。ゴール下のプレーでは高田も重要。宮沢にも注目してほしい。これまで日本のシューターは175センチくらいだったが、宮沢は182センチ。世界的に同ポジションは180~190センチ台がそろう中で、やっと追いついてきた。宮沢が外も中もできると相手は嫌がる。宮沢が外にディフェンスを引きつければ、中の渡嘉敷や高田のスペースが広がり、2人の負担が減る。相手に攻撃の的を絞らせない、理想的なバスケになる」

 「BIG3」のプレーをうまく引き出すのはポイントガード(PG)の役目。今の女子代表には個性の違う司令塔が頭角を現し始めている。18年W杯で初出場の藤岡麻菜美(24)=JX―ENEOS=、本橋菜子(25)=東京羽田=、安定性のある町田瑠唯(25)=富士通=の3人だ。

 「藤岡は空いたスペースの使い方がうまく、本橋は自分で得点を取れる。町田は前にパスを出して日本らしいバスケが展開できる。PG争いは最もし烈。誰が出てもおかしくない。試合によってどのPGとBIG3を組み合わせるかも、上位進出の鍵になる」

 BIG3と3人のPGで新たなスタイルを確率して、史上初のメダルに挑む。

 ◆大神 雄子(おおが・ゆうこ)1982年10月17日、山形市生まれ。36歳。愛知・桜花学園高から2001年にジャパンエナジー(現JX―ENEOS)入り。01年世界ジュニア得点王。04年アテネ五輪10位。08年には日本人2人目の米国WNBA選手としてマーキュリーに加入。16年にトヨタ自動車に入り、17―18年シーズン限りで引退した。

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