波乱万丈シングルマザー・ボクサー吉田実代、2本目のベルトへ20日ゴング

スポーツ報知
20日に東洋太平洋バンタム級王座決定戦(東京・後楽園ホール)を行い、東洋太平洋スーパーバンタム級1位のグレテル・デパスと対戦する日本女子バンタム級の初代王者の吉田実代

 日本女子バンタム級の初代王者の吉田実代(30)=EBISU K’S BOX=が、20日に東洋太平洋バンタム級王座決定戦(東京・後楽園ホール)を行い、東洋太平洋スーパーバンタム級1位のグレテル・デパス=フィリピン=と対戦する。

 2本目のベルトを目指した戦い。世界5階級制覇王者の藤岡奈穂子=竹原慎二&畑山隆則T&H=との実戦練習を積みながら調整を続けてきた。総合を中心に、盛り上がりを見せる女子格闘技界。ボクシング界を引っ張る一人が、吉田だ。

 学生時代はスポーツに明け暮れた。小学2年から中学1年までソフトボールに熱中。小学生では投手で4番、主将も務めた。だが、中学に入ると、一変。挫折から路頭に迷う。「遠征に親が帯同しないと、父母同士が揉(も)めるんです。選手も一生懸命だけど、親も一生懸命じゃないといけないみたいな(雰囲気になる)。私は母子家庭で、それができなかった。中学1年の時、先輩を差し置いて投手を務めたことで、先輩からひがまれてしまった。ソフトボールを辞めてダンスに逃げてしまったけど、そのダンスも途中で辞めて完全にぐれてしまった…」

 中学卒業と同時に、一人暮らしを始めた。反抗期の真っただ中。「自立したら親に何も言われなくてすむ」。通信制の高校に通いながら、20歳まで鹿児島市内で過ごした。「中学時代はやんちゃしてしまったけど、その頃がピーク。卒業してからは、やりたいことが見つかるまでは、ひたすら働いて貯金をしていました」

 人生の転機は、20歳の誕生日に訪れた。「1年前ぐらいから、誕生日当日に新しい一歩を踏み出す―と決めていた」。デパートで買い物中に、海外留学のパンフレットが目に留まった。

 「海外留学、ありだな」

 当時は今では考えられないほど、特殊な環境に身を置いていた。「周りはギャルばかり。私もキャバクラ勤務。このままじゃ変わらない…。誰も知らない所、海外に行きたいと思った。学もない。特技もない。でも、体を動かすことは好き。これしかないと思った」。4月から米ハワイにある格闘技の学校(ハワイ・マーシャル・アーツ・センター・アカデミー)に短期留学した。

 初めての海外。英語も話せない。まして、格闘技初心者だった。「3か月、観光ビザで。現地に行ったら、すぐにハマってしまった。着いた初日からスパーリング。女の子にボコボコにされて火が付いた。やりやって、気が付いたら、周りからは『グッジョブ!』みたいな声が飛んでいた」

 総合格闘技、シュートボクシングを経てボクシングに転向した。14年5月に佐藤絢香戦でデビューし、判定勝ち。幸先の良いスタートを切ったかのように見えたが、デビュー戦後、数か月がたって、交際中だった男性との間に妊娠が明らかになった。14年に結婚し、15年4月に長女(3)が誕生した。「『何、オマエ』みたいな感じで信用を失ってしまった。『絶対に頑張る』と啖呵(たんか)を切ったくせに、何やっちゃんたんだろうって。でも、堕(お)ろしたくはなかった。中途半端に選手として復帰しても無理。一度、現役を諦めたんです」

 その後、夫婦生活は破綻。1年4か月後の16年8月に離婚が成立した。「お互いに格闘技の選手だったので、周りも(結婚を)反対していた。(デビュー戦後の妊娠で)周りからは総スカンを食らったような結婚。妊娠、出産も公表できなかった。ひっそりと結婚、ひっそりと子供を産んだ感じ…。互いに不満もたまるし、ケンカも絶えなかった。そういうことに疲れてしまい、心が離れていったと思う」

 悶々(もんもん)とした日々。「不義理して辞めたのに、『もう1回やらせてください』とは、自分からは言えなかった」。キックボクシングのジムの関係者に「教えに来なよ」と声をかけてもらい、週に1、2回程度のペースで練習を再開させた。

 「もう次はない」。15年7月の復帰後は連勝街道を進んだ。ラストチャンスとして臨み、約1年半で頂点に上り詰めた。なぜ、そこまでボクシングにこだわって戦い続けるのか―。

 吉田は「自信を持ってできること。これが私の取りえだから」と語る。もちろん、まな娘の存在も大きな支えに。「娘も『ママはチャンピオン!』と応援してくれている。自分のためである以上に、格好いいお母さんでありたい。シングルマザーだけど、娘にとってのママであり、パパ。『ママ、絶対に勝ってね』『ママ頑張れ』『ママならできる』『やめたらダメだよ』って、いつも声をかけてくれる。うれしいことですよね。勝ち名乗りを上げる瞬間が、生きてきて一番幸せな瞬間。世界を取って、最高の景色を娘に見せてあげたいんです」

 娘の存在は「生きがい」と言い切る。「彼女の存在が、私を人間として成長させてくれている。『こんなにちっちゃい子がいるのに危ないことをして―』という意見もあるけど、人とは違う人生を歩んできた。会社員として(の人生)でも良かったのかもしれないけど、自分自身も違った景色が見たかったし、彼女にも見せたかった」

 シングルマザーとして、悔いのないボクシング人生を歩む。

 ◆吉田 実代(よしだ・みよ)1988年4月12日、鹿児島県出身。30歳。2017年10月、新設された日本女子王座の第1号・バンタム級王座決定戦に挑み、高野人母美に判定勝ちで初代王者に。戦績は9戦8勝(1敗)。身長161センチ。

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