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「再犯率4割の壁」を打ち破れ-少年院に集ったラガーマンたちの「挑戦」

2018年6月12日12時30分  スポーツ報知
  • 少年院・水府学院で行われたタグラグビー交流マッチ。試合後は互いに握手で健闘をたたえ合った

 青空がまぶしい。強烈な太陽光線が降り注ぐ芝生の上では、ラガーマンのおっちゃんたちと10代の若者が必死にラグビーボールを追いかけていた。

 「丁寧に行くぞ!」

 「ナイスプレー!」

 声が出る。汗が噴き出る。時間の経過とともに、少年たちの表情に笑顔が広がっていった。

 6月5日。平日の午後にもかかわらず、茨城県茨城町にある第一種少年院「水府学院」に全国からラガーマン約40人が集まった。少年院の在院者と一般企業に勤務する大人たちが直接交流するイベント「第5回タグラグビー交流マッチ」に参加するためだ。

 タグラグビーはタックルが禁止され、代わりに腰に巻いたタグを取るというもので、初心者にも楽しめるルールになっている。

 なぜ、少年院でラグビーなのか。大会を運営する茨城県教育庁参事の小沼公道さんは、狙いをこう語ってくれた。

 「少年院に入ってくる子供たちは罪を犯して、それぞれ在院期間があるのですが、その多くは社会に出て、もう一度やり直したいと施設の中で頑張っているんです。『塀の中』ですから、一般社会の人たちはそういう姿を見たことがありません。結果的に出た後も、『犯罪者』というレッテルを貼られているから、社会の目は厳しい。就職もなかなか難しい状況になる。だから子供たちは『なかなか社会が受け入れてくれるのは難しい』と、もう一度、犯罪に走ってしまう傾向があります。そこで全国的な問題になっているのは『再犯率4割の壁』なんです」

 少年院で一度は更生を誓った子供たちが出院後、うまくいかずにまた犯罪に手を染めてしまう-。この「4割の壁」を打破できないものか。小沼さんは続ける。

 「再犯率を下げるためには企業の人たちに、子供たちがここでどれだけ頑張っているのかを実際に見てもらって、『社会は君たちのことを待っているぞ』というメッセージを送ることが重要だと思ったんです。社会に出た後、雇用を促進して、将来設計をしてあげるというのは大人の役割だと思います。そこに再犯率を下げるポイントがあるんじゃないか。そういうことを考えながら、この事業を立ち上げたわけです」

 定職に就き、仕事にやりがいを見いだす。安定した収入を得る。そうすれば再び、罪を犯す可能性は少なくなっていくだろう。

 大会前、小沼さんはラガーマンたちにこう呼びかけた。

 「とにかく、子供たちをいっぱい褒めてあげてください。『ナイスプレー』でも『よくやったぞ』でもいい。それが彼らの明日を生きる力になるんです」

 15歳から19歳の若者たち52人は序盤こそカタい表情だったが、大人たちから声をかけられるたびに、徐々に「いい顔」になっていった。

 小沼さんは言う。

 「ここに来る子供たちの多くは、あまり褒められた経験がないというんです。やはり、自己肯定感が足りなかったと思うんですよ。人は認められてこそ、伸びると思います。けなされて伸びる人って、なかなかいない。外部の人たちから『いい動きだったぞ』と言われることで、自分に自信を持ってほしいんです」

 大会が進行するにつれ、わたしはあることに気づいた。プレー中の少年たちだけでなく、いやそれ以上に、控えたちがでっかい声を出しながら、戦う仲間を鼓舞しているのだ。

 その姿はわたしが普段、取材している高校球児たちと、そんなに変わらなかった。

 ふと考えた。犯罪には被害者がいる。少年院の在院者は加害者である。過去は消せない。ずっと背負っていかねばならない。

 ただし、かつてのわたしもそうであったように、10代は迷う。周囲の環境にも大きく左右される。すべては自己責任。そう言い切るには、目の前にいる彼らは、幼すぎる。

 人生は長い。せめてこれから、自分自身と正面から向き合い、ルールをしっかり守って、よき生き方を目指していけないものか。わたしたち大人は、大きな心で、立ち直ろうとする彼らを応援できないものだろうか。

 参加者の中には神戸製鋼のV7戦士でもある杉本慎治さんがいた。伏見工業、同志社大での活躍も語りぐさだ。現在は京都市内で工務店を経営する。少年たちとラグビーをするために、わざわざ茨城までやってきた。大会には2度目の参加になる。

 「僕も伏見工業という『スクールウォーズ』のモデルになった学校の出身ですから…。結局、同じような環境からラグビーに助けられたというのがあるんですよ。いろいろ事情があると思うんですけど、少年院の子らもそんなに変わらないですよね。普通の子なんですよ。だから挽回する機会を僕ら大人がつくらなきゃあかんと思うんです。だからある意味、スカウトに来たというか。この輪が全国に広がっていければと思いますね」

 杉本さんと同じ同志社大の出身で、ラグビーワールドカップに日本代表として3度出場した駿河台大ラグビー部監督の松尾勝博さんも、少年たちと積極的にコミュニケーションをとっていた。松尾さんはラオスでもラグビーの指導歴がある。当時の経験を踏まえ、こんな話をしてくれた。

 「最初よりも最後の方が、『がんばれ』とか『ごめん』『ありがとう』『ナイスプレー』といった声がたくさん出ていたじゃないですか。私はラオスでも、薬物依存の子たちを社会に復活させるために、ラグビーを取り入れていたんですよ。きょうは大人も子供も一生懸命、一緒になって声を出し合って、前に進んでいた。すごくいいコラボだったと思います。大人が何をやらなきゃいけないか、逆に教えられました。この輪が広がっていけば、再犯率も低くなると思うんです」

 小沼さんには夢がある。

 「この茨城の取り組みが今後、日本全国の少年院で進んでいけば、きっと再犯率4割の壁は崩せると思うんですね。その挑戦も茨城から発信していきたいと思っています」

 「ワン・フォア・オール」「オール・フォア・ワン」-まさにわたしたちが「スクールウォーズ」から学んだ、ラグビーのスピリットだ。対戦相手にも敬意を払う。仲間と一つの目標に向かって全力を尽くす。うまくいかない時こそ、力を合わせて体を張る。

 そして楕円形のラグビーボールは、どう転がっていくか、誰にも分からない。

 それはまるで、人生のように。

 でも、歯を食いしばって前に進むしかない。

 彼らは決して一人ではない。この日、大人たちが真剣にぶつかってきた情景が少年たちの心のどこかにあり続け、生きる上での「力」になることを願う。(記者コラム・加藤 弘士)

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