居合道で不正横行 鈴木大地長官「詳しい調査を」

スポーツ報知
居合道の称号と受審資格

 日本古来の武道が汚れてしまった。全日本剣道連盟は17日、居合道の段位、称号審査で、受験者が合格目的で審査員らに多額の現金を渡す不正が横行していたと明らかにした。既に関係者は処分されたが、審査員から現金の要求もあったとされ事例は極めて悪質。受験者から内閣府公益認定等委員会への告発もあり、スポーツ庁の鈴木大地長官は「詳しい調査を」と真相究明を厳命した。

 相次ぐスポーツ界の不祥事で、今度は武道の金銭授受問題が明るみに出た。全日本剣道連盟によると、居合道の段位、称号審査で受験者と審査員の間で現金のやり取りが慣例化していたという。連盟の中谷行道常任理事は「あってはならないことが起きた」と述べ、審査員の氏名を当日まで秘匿することや、大会での土産物授受の自粛などの再発防止策を講じたと説明した。

 中谷常任理事は、演武の出来栄えを評価する居合道の審査で主観的な要素が占める割合が多いという特徴を挙げ「お金が介在する余地があった」とも語った。審査員の氏名は受験者に知れ渡っており、事前接触は容易。さらに同じ審査員が長年継続し、「古流」と呼ばれる伝統的な流派の重鎮が、審査に強い影響力を及ぼす実態もあったという。

 金銭授受は多額に及んだ。審査員から現金の支払いを要求されたとする受験者の男性が、内閣府公益認定等委員会に告発状を提出していたこともこの日、発覚。男性は告発状で12年に八段の審査を受けた際、複数の審査員に計650万円を渡すよう求められたと訴えた。

 連盟は、この事案については調査の結果、告発内容を裏付ける証拠が出てこなかったとした。だが、同年に最高位「範士」の審査で、受験者が審査員ら7人に計100万円程度を配ったケースと、16年に八段の審査で受験者が審査員らに渡してもらう目的で指導者に約200万円を預けた件を明らかにした。いずれも受験者は不合格だったという。

 連盟は金銭授受の関係者に対し個人会員資格停止、段位・称号の自主返上や停止などの処分を行ったが、事実関係を認めて反省している者については処分の執行を猶予した。

 内閣府は告発を受け、全日本剣道連盟が加盟する日本オリンピック委員会(JOC)、日本スポーツ協会に事実の確認を求めた。鍛錬によって人間性を磨くとされる武道で、真摯(しんし)な対応が待たれる。

 〇…鈴木長官は訪問先の岡山県で17日、居合道の問題について「詳しい調査と、同様に段位を持つスポーツについても調べるよう指示した」と、他競技の徹底調査にも厳しく言及した。レスリングのパワーハラスメント問題や日大アメフト部の悪質タックル、日本ボクシング連盟の不正疑惑など度重なる不祥事を踏まえ、迅速な対応を求めた。

 ◆今年の範士審査会 全日本剣道連盟によると、最高位となる居合道範士審査会は通常年1回の実施。今年5月の審査会(京都)の合格者は70歳、74歳、82歳の3人だった。

 ◆居合道 刀を抜く抜刀術を武道化したもので、室町時代に起源があるとされる。真剣か模擬刀を用い、全日本剣道連盟が定める内容の「形」を制限時間内に演武する。「修業の深さ」「礼儀」「技の正確さ」「心構え」などを審判員が判定する。17年3月末時点で有段登録者は約9万3000人。

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