百花繚乱、196か国を着物で導く東京五輪開会式…採用夢見て残り96着

スポーツ報知
4月29日、福岡・久留米市で100か国分の着物がお披露目された

 東京五輪・パラリンピックが開催される2020年までに世界196か国をイメージした着物と帯を完成させる「KIMONO PROJECT」が進んでいる。福岡県久留米市の老舗呉服店の3代目店主・高倉慶応さん(50)が「平和の祭典で、着物という日本文化を通じて世界を一つに結びたい」と14年に着手、現在100着を作製した。20年7月24日の開会式での入場行進で正式採用となれば、まさに百花繚乱(りょうらん)のおもてなしだ。(甲斐 毅彦)

 あれも、これも、すべてが豪華絢爛(けんらん)だ。異文化を描いているはずなのに全く違和感を感じない。着物が持つ親和性と包容力を思い知らされる。

 米国やロシア、中国といったメダル量産が予想されるスポーツ大国も、私たちにとってなじみの薄い国々も、制作予算は一律200万円。「ホスト国ですからお客さんは公平にもてなさないと。この発想で世界に発信してこそ意味があると思うんです」と高倉さん。制作費だけで総額4億円のプロジェクトの根底には、徹底した平等思想がある。

 多くの伝統産業の例にもれず、実は着物業界も貸衣装やインクジェットで印刷された廉価品に押されて苦戦している。本物を買う人は減り、職人も激減して危機感は募るばかり。何か業界を活性化することはできないか。思い立ったのが、五輪という場で「着物を通じて世界を一つに結ぶこと」だった。

 14年8月に一般社団法人「イマジン・ワンワールド」を設立して制作者と寄付・協賛を募り始めた。しかし、当初の業界の反応は冷たかった。「どだい無理な話だ」「商売目的か」

 高倉さんは「まずは形にして示さないと理解してもらえない」と自費で南アフリカ、リトアニア、ブータン、ツバル、ブラジルの5か国をサンプルとして作製。五輪にちなんでアフリカ、ヨーロッパ、ユーラシア、オセアニア、アメリカの5大陸から1か国ずつ選んだのだ。

 同年11月に東京で制作発表会を開催したところ「面白い!」「素晴らしい!」と声が上がり、徐々に賛同者が増えていった。現在、着物は京友禅、加賀友禅、東京友禅など、帯は博多織、西陣織などの約150の制作者がプロジェクトに参加。スポンサーには、米国ならば「アメリカン・エキスプレス・ジャパン」といった具合に、1か国ごとにその国とゆかりがある企業・団体がつく場合が多い。

 図柄は原則的に、その国の駐日大使と議論して決める。「日本文化の発信だけでなく、相手国の文化・自然も双方向で学ぶ。そこで私たちも日本文化を再発見できる。日本の伝統文化の技法を使って、相手国の文化を描くダイバーシティーの考え方です」

 安倍晋三首相も公式晩餐(ばんさん)会の席上で「五輪に向けてKIMONO PROJECTが進んでいる」と言及。開会式の入場行進で各国の着物を着た女性が先導する可能性は十分ある。ホスト国日本の着物には、最後に着手する予定だ。

 ◆発起人は元銀行員 高倉さんは慶大経済学部卒業後、都市銀行に入行。英語を駆使して国際機関で働くのが夢だったが、家庭の事情で退職し、家業の呉服店「蝶屋」(久留米市)を継ぐことになった。行き着いたのが、着物という日本文化を通じての国際相互理解を進める、このプロジェクト。「国際関係の仕事を一度は諦めましたが、今が一番いろんな国の人と会っています。あとは残りのスポンサー探しが最大の課題です」

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