パラスポーツカメラマンが語る「ならではの魅力」

スポーツ報知
陸上・04年アテネパラリンピック男子100メートルT44の決勝。金メダルのマリオン・シャーリー(右)と銅メダルのオスカー・ピストリウス

 2020年の東京パラリンピックまで、25日であと2年を切った。30年以上、パラスポーツの写真を撮り続けているカメラマン・清水一二(かずじ)さん(64)は「生で見れば間違いなく興味を持つことができるし、東京大会の盛り上がりにもつながる」という。自ら選んだ写真とともに、五輪では得られないパラの魅力を語った。(高柳 哲人)

 1994年リレハンメル大会でパラリンピックに初参加した清水さん。パラスポーツを専門に撮影するようになったのは、大学卒業後に勤務した神奈川リハビリテーションセンターでの出会いがきっかけだった。

 「センターの車いすの職員から、『アーチェリーをやっている写真を撮ってほしい』と頼まれた流れで、全く前知識なしで車いすバスケを撮ることになったのですが、驚きの連続。私は高校時代、車が好きでレースの写真を撮っていたのですが、車いすの車輪がレースカーのタイヤと同じように見えたんです」

 しかし、リレハンメル大会でアジアからカメラマンとして参加したのは清水さん1人だけ。その後、足を運んだ国際大会でも、パラスポーツに対する日本の理解の遅れを感じざるを得なかった。

 「海外のパラ陸上ではスタジアムがいっぱいになるのに、日本では正直言って、現在もスポンサーなどが(観客の)動員をかけています。それでも席が埋まらない。車いすバスケは漫画『リアル』で知名度が上がりましたが、どんな形でもいいから知ってもらうことが重要なんです」

独特『怖い』感覚 パラスポーツには「ならでは」の魅力があるという。それはアスリートたちの“出発点”の違い、さらに恐怖心と闘う姿だ。

 「パラの場合は生まれつき障害があった人もいれば、事故などである時突然、障害を持った人もいる。50歳から競技を始めて60歳でメダルを取った人も。五輪以上に、選手たちにドラマが詰まっているんです。あと、健常者の人たちはトレーニングや競技中に『苦しい』『つらい』というのはあるかと思いますが、それに加えて障害者には『怖い』という感覚がある。例えば盲目の人は前に何があるか分からないのに、胸を張って踏み出さないといけない。その真剣勝負が感動につながるのだと思います」

 東京大会は、前回のリオと異なり、競技場が分散していることから、「はしご観戦」が難しくなっている。

 「だからこそ、この2年の間に自分が興味あるパラスポーツを見つけて、開催時には足を運んでほしい。私も、多くの観客をバックに写真を撮りたいですから」。

 アスリートの息遣いや緊張感を感じながら、レンズ越しに間近で競技を見てきた清水さん。東京大会の実施競技の中で、特に「ライブ観戦してほしい」と思っているという競技を、自身が撮影した写真とともに紹介してもらった。

 ◆清水 一二(しみず・かずじ)1954年6月21日、横浜市生まれ。64歳。日大芸術学部卒業後、神奈川リハビリテーションセンター写真室に勤務。現像所での技術・営業職を経て、80年にフリーカメラマンとなる。企業広報誌、カタログなどの企画・撮影をしながら、障害者スポーツを30年以上にわたり撮影。98年長野、2000年シドニーの両大会では国際パラリンピック委員会メディアスタッフとして撮影を担当。フォトサービス・ワン代表。趣味は合唱、ジョギング。

 陸上 脚部の欠損者がつける陸上競技用の義足は、見たことのある人が多いかと思いますが、レースで走る時に、どのような音がするか知っている人は少ないのではないでしょうか。
 「パタパタ」という音がするんです。競技場に行くと、そんな音が聞こえてきますし、念入りに様子を確認しながら用具を装着し、集中していく過程も見ることができます。これは、テレビ観戦では分からないことです。

ウィルチェア  ラグビー
 車いすバスケと同様にウィルチェアラグビーも障害の程度に応じて点数が決まっており、上限を超えないようにして選手が出場します。パラスポーツは平等になるためのルール作りが難しいのですが、それがきっちりとできている象徴的な競技。車いす同士が激しくコンタクトした時の音や、タイヤのゴムが焦げる臭いは、コートの近くで観戦するからこそのもので、興奮すると思います。

水泳 他の競技とは異なり、水泳はある意味「障害者スポーツの原点」といえると考えています。補助用具などを使うことができない、ありのままの姿で臨むからです。本当に泳ぐことが好きだから大会に出場しているということを選手から感じ取ることができますし、その姿に感動を覚えると思います。ハンデによって泳法はさまざまとなりますが、これこそ“自由形”と呼べるのではないでしょうか。

ブラインドサッカー 鈴の入ったボールを使うブラインドサッカーは興味を持ちやすいパラスポーツだと思います。選手は条件を同一にするためにアイマスクをつけてプレーします。つまり、健常者の人でもプレーを経験できる。認知拡大のために体験会なども行われているので、競技を身近に感じることができます。どんな気持ちで選手がゲームに挑んでいるかを知ると同時に、その難しさも理解してほしいですね。

 清水氏ベストショット 車いすバスケの写真は、体育館のキャットウォーク(高所の足場)に10分だけ許可をもらって上がり、撮影したもの。シドニーの文字をきれいに入れることができました。こんな写真はなかなか撮れないと思いますし、自慢のショットです(笑い)。卓球はポーランドのナタリア・パルティカがサーブを打つ瞬間。世界で7人しかいない、五輪とパラリンピックの両方で代表となった選手です。ずっと撮影したいと願っていた被写体だけに、思い入れのある一枚です。

 

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