阿部詩、オール一本V 18歳YAWARAに並んだ!日本勢史上初の兄妹世界一

スポーツ報知
阿部一二三と阿部詩

◆柔道世界選手権第2日(21日、アゼルバイジャン・バクー)

 【21日=林直史】女子52キロ級で初出場の阿部詩(18)=兵庫・夙川学院高=が金メダルに輝いた。この階級で2年連続の日本人対決となった決勝で、前回女王の志々目愛(24)=了徳寺学園職=を延長の末、内股で撃破した。初戦からオール一本勝ちで、衝撃的な世界選手権デビューを飾った直後、兄の一二三(21)=日体大=も男子66キロ級で2連覇。日本勢史上初の兄妹世界一を成し遂げた2人が、2020年東京五輪での快挙に突き進む。

 阿部詩が兄顔負けの豪快な柔道で、世界の頂点に駆け上がった。決勝では昨年の世界女王の志々目を延長の末、一瞬の隙を逃さずに内股で下した。18歳での優勝は日本女子では谷亮子氏以来、2人目。「今年に入って一番うれしい。自分の柔道が100%出せるように考えて、一つ一つの練習をやってきた。それが全部出て勝てた」。新女王は両親らが見守る観客席に向かって、笑顔で手を振った。

 兄の一二三を追うように5歳で柔道を始めた。当初は「お互いに強くはなかったので、尊敬とかはしていなかった。普通の兄妹」と振り返る。だが、中学で全国優勝を果たしたその背中が次第に目標に変わり、柔道スタイルをまねるようになった。兄が試合で決めた技を練習で試し「自分風にアレンジしてきた」と成長の糧としてきた。

 昨年12月のグランドスラム東京で優勝するなど、国際大会で着実に実績を積んできたが、今年4月の全日本選抜体重別選手権で3位に終わり、今大会は2枠目での派遣だった。「自分の柔道はどうなんだろうって悩んだ時期もあった」。それでも、試合前には母・愛さん(46)から「詩の柔道で世界一」、女子の増地克之監督(47)からは「自分の柔道に徹しろ」と言葉を受け取っていた。

 持ち味の兄譲りの豪快な担ぎ技に、準決勝ではわずか26秒で腕の関節をきめるなど、課題として取り組んできた寝技もさえた。「やってきたことは間違いじゃなかったと確信できた。自分の進化、成長をアピールできた」。日本柔道界で初めて男女のきょうだいで臨んだ大舞台で、兄が昨年から公言してきた「オール一本勝ち」での優勝もひと足先に成し遂げた。試合後、顔を合わせると「やってやりました!」と胸を張った。

 兄の前では「一二三」と名前で呼ぶ。「お兄ちゃんとは呼べないですね。恥ずかしいです」。普段の会話もほとんどが柔道の話題だが、高校を卒業する来春からは実業団からの誘いもあった中で、さらなる成長を求めて兄と同じ日体大に進むことを決めた。「お兄ちゃんと優勝できて本当に最高でした。夢だった(東京五輪)兄妹で優勝っていうのが一歩近づいたかな」。世界最強の兄と刺激し合い、東京五輪の同時金メダルへ突き進んでいく。

 ◆主なきょうだいでの世界一

 柔道の世界選手権では男子の中村3兄弟が有名。93年大会で長男の佳央が86キロ級、次男の行成が65キロ級を制した。三男の兼三は、96年アトランタ五輪71キロ級で金メダルを獲得。同大会で次兄の行成は65キロ級銀で、惜しくも同時世界一を逃した。69年世界選手権では園田兄弟が躍進し、兄の義男が軽量級、弟の勇が中量級で優勝。上野姉妹は姉の雅恵が70キロ級で01、03年大会を連覇。妹の順恵も63キロ級で09、10年大会を連覇した。

 他競技では、18年平昌冬季五輪のスピードスケート女子団体追い抜きで高木菜那、美帆姉妹が金メダルに輝いた。レスリング女子では、伊調千春、馨姉妹が03、06、07年世界選手権をそろって制し、3度の同時世界一を経験。冬季のノルディック複合では、95年世界選手権で荻原健司、次晴兄弟が団体金メダルに輝いた。68年メキシコ市五輪の重量挙げでは三宅兄弟が同一種目での同時表彰台を達成。フェザー級で兄の義信が金メダル、弟の義行が銅メダルを獲得した。

 ◆最年少優勝 国際柔道連盟(IJF)によると、阿部詩の18歳2か月での世界一は、日本女子では1993年ハミルトン大会を18歳0か月で48キロ級を制した田村亮子(現姓・谷)に次いで史上2番目の若さ。今大会の女子48キロ級を制した17歳のダリア・ビロディド(ウクライナ)は、田村を抜き同選手権で史上最年少優勝。

 ◆阿部 詩(あべ・うた)2000年7月14日、神戸市生まれ。18歳。5歳で柔道を始め、兵庫・夙川学院中で15年に全国中学校体育大会優勝。夙川学院高に進んだ昨年11月の講道館杯全日本体重別選手権で3位に入り、12月のGS東京は2位。17年GPデュッセルドルフでワールドツアーを16歳の史上最年少で制した。同年GS東京、世界ジュニア選手権、18年GSパリ優勝。得意技は内股、袖釣り込み腰。158センチ。

 

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