伊調馨、東京への第一歩「レスリング再開できたことが幸せ」788日ぶり復帰V

スポーツ報知
復帰戦となった準決勝で伊調馨(左)は沢に勝利し、決勝へ駒を進めた(カメラ・生澤 英里香)

◆レスリング 全日本女子オープン選手権 最終日(14日、静岡県三島市民体育館)

 五輪の女子個人種目で史上初の4連覇を達成した伊調馨(34)=ALSOK=が57キロ級に出場し、16年リオデジャネイロ五輪以来、約2年2か月ぶりの復帰戦を優勝で飾った。日本協会の強化本部長だった栄和人氏(58)から受けたパワハラの問題を経て、20年東京五輪での5連覇に向けて上々の滑り出し。今後について、パワハラ問題以前と同様に田南部力氏(43)の指導を受けられる練習環境を要望した。

 わずかな隙を見逃さなかった。伊調は相手のタックルをつぶすと、逆に抑え込んだ。3分34秒。フォール勝ちで788日ぶりの復帰戦を優勝で飾った。淡々と勝ち名乗りを受ける姿は変わらない。「レスリングをもう一度、再開できたことが幸せ。喜びを感じることができた」。試合後の会見で、ようやく笑みが漏れた。

 パワハラ騒動を受け、人目を避けるために自宅を離れ、ホテル住まいも余儀なくされた。「レスリングをすることがわがままなのでは」と葛藤したが、体を動かすうちに自分の本音が見えた。「レスリングをしたいという気持ちが背中を押した。挑戦できるものに挑戦しないのは自分に負けている」。4月から日体大で本格的な練習を再開した。

 髪の毛を短く切り、ブランク明けとは思えない締まった体で臨んだ。関係者によると、体重は「リミットよりかなり軽い」。初戦は38秒テクニカルフォール、準決勝はフォールで突破した。大橋正教監督(57)は「応援する側としては五輪に行ってほしい」とエール。周囲の5連覇への期待にも「まだ環境的に100%作れていない。100%の自信を持てる環境になって、上がってきたという気持ちになれば見えてくる」。慎重に言葉を選んだ。

 伊調の望む環境とは、パワハラ問題以前同様の田南部氏との二人三脚。「フィジカル的にもレスリング的にも、自分にとって必要不可欠な存在。一緒に全日本に向かって頑張っていきたい」。日体大の外部コーチの田南部氏は警視庁勤務のため、毎日練習を見ることは難しいのが現実。乗り越えなければならない課題も多い。

 西口茂樹強化本部長(53)は11月の全日本合宿招集を明言し、伊調も「すごくありがたい話。参加したい」と答えるなど協会との歩み寄りは見せた。会見中、周囲への感謝を何度も口にした。「結果で恩返ししたい。もっと強い自分を見せたい」。次戦は来年の世界選手権代表選考を兼ねる年末の全日本選手権(12月20~23日、駒沢体育館)。覚悟をもってマットに上がる。

(高木 恵)

 ◆リオ五輪後の伊調とパワハラ騒動

 ▼16年8月17日 58キロ級で女子史上初の五輪4連覇。9月に政府が国民栄誉賞授与を決定。

 ▼18年2月28日 栄氏からパワハラを受けたとして、レスリング関係者が1月に代理人を通じ、内閣府の公益認定等委員会に告発状を出したことが判明。

 ▼3月6日 日本協会は倫理委員会で、第三者機関に聞き取り調査の委託を決定。

 ▼4月5日 第三者機関の調査報告書の内容を日本協会に説明。栄氏の行為の一部をパワハラと認定。

 ▼4月6日 栄氏が強化本部長を辞任。

 ▼6月 至学館大が栄監督を解任。

 ▼8月上旬 日本協会の福田富昭会長が伊調の元を訪れ謝罪。

 ▼8月10日 実戦復帰を表明。

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