五輪新種目・空手の清水希容、奥深い形の道…世界選手権6日開幕(1)

2018年11月6日17時54分  スポーツ報知
  • 世界選手権で3連覇を狙う清水希容(カメラ・石田 順平)

 空手形(かた)の世界は奥深い。目前に敵を想定し、突きや蹴りを激しく繰り出す演武。6日開幕の世界選手権(スペイン・マドリード)で3連覇を狙う清水希容(24)=ミキハウス=と喜友名(きゆな)諒(28)=劉衛流龍鳳会=は、完成のない世界で理想を追い求めている。東京五輪で初めて実施種目となった新競技。金メダル候補が語る形の世界とは。わずか数分の演武に人生を映し出し、“表現者”として鍛錬に励む姿を追った。

 学校の教室より少し広いくらいの練習場。清水は一人、大鏡に映る自分と向かい合う。愛らしい笑顔が吹き飛ぶ、気合の絶叫で演武開始。音のない空間に突如生まれた緊張感が、皮膚に突き刺さる。響くのは胴着のきぬ擦れの音。足先から髪の毛一本にも気を集中させ、全身の神経をとがらせた。数分後、汗を滴らせ、凜(りん)とした姿勢で一礼。まさしく鍛錬―。これが形である。

 「見えない空気感、勢い、表情、肌感覚を感じてもらいたい。それが形の魅力。映像ではなく生で見てほしい。私が大事にしているのは、人にどれだけ伝えるか、心に残すか。勝ち負けのためにやってないんです。常に限界を求める面白さがある。やめられない」

 形の選手は“表現者”。それゆえ、完成のない世界なのだ。追求するのは、人の理想を超えること。

 「『これって人ができるの?』『本当に実現できるのかな?』ってところまで体現したい。本当にこれをされたら倒れるだろうなって」

 倒れる敵を観衆に見せる。その実現には、心技体のどれもが必要だ。中でも、人生経験からくる人間性の厚みを大切にする。

 「経験が浅いと何も生まれない。形って粘土だと思う。いろんな経験で作り上げていくもの」

 表現力を磨くため、他分野の研究にも足を運ぶ。フィギュアスケート、劇団四季、オーケストラ、歌舞伎・市川海老蔵の公演…。“本物”を肌で感じて気づいた。

 「表現って面白い。それぞれの世界で常に全力。いいものを常に求めていて、味がある。生で見ると、空手と一緒で空気感、スケールが違う」。男子選手も分析し、力強さを吸収した。

 体力の消耗は想像以上だ。形一つの過酷さを「200メートル走」と例える。それを一日で5、6回。特に決勝など大一番で使う形は体力が必要。出番の間隔は10~15分、さらに短い時もある。

 「筋トレでめっちゃ重いものを上げて、乳酸をためてからダッシュするみたい。一瞬で気持ちも切り替えないといけない。『ハァ、ハァ、よし!』みたいな。もう心が折れそうになる。過呼吸になるんじゃないかって(笑い)」

 演武後に倒れ込む選手もいるほどだ。

 全力を出すには食事管理が重要だが、演武の合間はきつすぎて固形物を摂取できない。試合前日に炭水化物で腹いっぱい栄養補給し、当日はゼリー飲料などで補う。それでも「肉体と神経の消耗がある」と必然的に体重が2、3キロ落ち、連戦なら数日後の大会に向かう。「自分が1番じゃなきゃ嫌」という性格を原動力に、東京五輪金メダルへまい進している。

 世界女王の描く究極の形とは。

 「観客とか、周りの人の力を借りて一つの形を作り出したい。結局は芸術みたいなもの。私一人がただ演武するだけでは作り得ない。会場の空気とか、全てが一致した時に最高の演武ができる」

 観衆が沸き立つような景色を追う。ただ、それが終わりではない。

 「表現は永遠につながっていく。競技を辞めても、空手(の探究)は続く。だからこそ魅力的。もっと鍛錬して、自分の知らないことを勉強したい」

 果てしなく広がる形の世界。短い演武の中に人生を表している(浜田 洋平)

 ◆清水 希容(しみず・きよう)1993年12月7日、大阪市生まれ。24歳。ミキハウス所属。兄の影響で小学3年から「養秀館本部」で空手を始める。東大阪大敬愛高3年の高校総体で優勝。関大を経て、2016年4月にミキハウス入社。14、16年世界選手権を連覇。8月のアジア大会を連覇。全日本選手権は13年に大会最年少優勝で、17年まで5連覇中。三段で流派は糸東流。160センチ、55キロ。家族は両親と兄。

 ◆形(かた) 相手と直接対決せず、仮想の敵を倒すことが目的。2人の選手が1人ずつ1分半~4分の演武を行い、5人の審判が旗判定で勝者を決める。国内大会では指定の形から選択するが、国際大会は自由。一大会では同じ形は一度しか使えない。技の正確性、力強さ、スピード、リズム、バランス、極め、表現力などを競う。評価基準を明確にするため、来年からフィギュアスケートのように採点形式になる見通し。トーナメント方式で行われ、試合前後の礼を怠る、演武中に道着の帯が外れる、事前申告した形と異なる形を行うなどは反則。決勝など大会終盤に運動量が多い形を選んでも評価に加味されず、一つの演武として審査される。

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