【篠原信一の柔道一本】篠原流「五輪への7か条」~第3章は「仮面ライダーと水戸黄門はなぜ強いか」
第1章はいかに筋力が大事で、第2章では逞しい精神力を作る話をしました。第3章は「新しい技術の獲得」。攻防に最も必要な技や技術を増やすことです。
▼篠原流『五輪への7ヶ条』
【1】筋力アップ
【2】たくましい精神力を作る
【3】新しい技術の獲得
【4】想定外を常に考える
【5】世界の情報を収集、分析する
【6】常に緊張感のある練習をする
【7】総合力を高める
2020年東京五輪に向け、1月後半から2月にかけて国際大会が目白押しです。トップ選手は各国からマークされ、研究もされます。時代は常に動いていて、新たな技術を習得しなくてはなりません。時は待ってくれません!(決まった! 俺って良いこと言うわ) 新しい技術の獲得とは細かく言えば「技能」になります(技術と技能の違いについては第4章で)。
新しい技術はいろいろあります。「得意技を増やす」「技の入り方を変える」「技のつなぎ方を工夫する」「組手の強化」などなど。得意技は1つか、2つあれば、まず問題ありません。では、その得意技はどう効果的に使うのか。
【タイミング】
皆さん、「仮面ライダー」や「水戸黄門」をご存知ですよね。共通するのは何か? そうです。「必殺技」なんです。仮面ライダーはライダーキックでショッカーを「イィ―!」とけ散らし、水戸黄門は「控えおろう!」のあの「印籠」をかざして相手を土下座させます(実行部隊は、助さん、角さんですが!)。
必殺技が出るタイミングは水戸黄門が殺陣が始まってからの午後8時40分過ぎ(だったと思う)。ライダーキックは終盤がお約束(だったと思う)。柔道もそう! 必殺技につなげていくシナリオ(試合展開)を考えることが大事なんですよ。小さな技や組手でつないでいくわけですが、相手がどんだけ、得意技を警戒しても掛かってしまうもんなんです。当然、相手もくるぞ、くるぞと警戒します。なので、時には必殺技をおとりにして別の技を突然、仕掛けると効果的にかかることもあります。
時速160キロの豪速球だけでは大リーグでは通用しないでしょ? 緩急を使い、チェンジアップ、スライダー、フォークを出すから最後の仕留めの160キロが生きるんです。ここぞの一発に誘導する技のレパートリーを多く持ってればいいんです。
【どんだけ~、背負い投げ~!】
私は内股、大外刈りが得意技でしたね。外国人選手から研究され、警戒され、技が掛けられなかった時もありました。斉藤仁先生との稽古を思い出しますねぇ。
斉藤先生「内股、大外刈りだけじゃダメだ! 他の技も覚えろよ!」
篠原「どんだけ~! 背負い投げ~!(IKKO風)以外なら出来ますけど」
斉藤先生「アホ! 内股、大外刈りばかり掛けやがって! 他の掛けんか!」
篠原の心の声「だって今まで考えて技を作るなんてした事ないもん! 無理! それに俺は内股、大内刈りだけでいけるんやて。余計なことを言うなって」
技を覚えるために立技の乱取りでいろいろ試しましたね。
斉藤先生「内股、大外刈りは掛けるな! 今度は大内刈りと支釣込足、体落としだけ!」
篠原の心の声「楽勝! 楽勝! だって篠原ですから(ドヤ顔)」
ところが40分過ぎてくると相手が慣れてきて、大内刈り、支釣込足、体落としが掛からなくなり…。
斉藤先生「あっ! 誰が内股を掛けろと言った! 大外刈を掛けるな! 内股すかしで楽するなって!」
篠原「先生! 相手も大内刈りと支釣込足と体落としって分かってるから、投げれませんよ!」
きつくてクタクタ。斉藤先生が言いました。「疲れてから掛かる技が本物の技や」と。この稽古のお陰で、私は体落としを覚えました。
え? 「篠原は仮面ライダーではなく怪人顔」って。それって、どんだけ~!(涙)
◆篠原 信一(しのはら・しんいち)1973年1月23日、神戸市出身。45歳。中学1年で柔道を始め、育英高、天理大を経て旭化成に入社。98~00年まで全日本選手権3連覇。99年世界選手権で2階級(100キロ超級、無差別級)制覇。2000年シドニー五輪100キロ超級銀メダル。03年に引退。08年に男子日本代表監督に就任し、12年ロンドン五輪で金メダル0の責任を取る形で辞任。