【篠原信一の柔道一本】篠原流「五輪への7か条」~第4章は「ハッとしてグー」に見い出す

スポーツ報知
2007年6月には自衛隊に体験入隊した全日本男子代表。井上康生氏も「想定外」のパラシュート降下訓練で涙目に…

 田原俊彦さんの名曲「ハッとして! Good」の歌詞に、第4章のテーマが詰まってると! この項を書いていてそう思いました。

 冒頭にある高原の電話ボックスでの出会い。ここに私が訴えたい第4章があるんです。作詞された宮下智さんは柔道家か!? と、ほんまに考えてしまいましたね。

 つまり、トシちゃんの曲って極論は想定外の話。で、どう対応したの? という歌なんです。これって柔道の試合において、想定外のことに出くわした時の状況とけっこう似てるんです。 高原にいて電話かけなアカン、どっかに電話ボックスないかな~?と、探して探して見つけた! と、思った矢先に、そこに考えもしなかったメッチャかわいい女の子(またはかっこいい男の子)に出会ったら、あなたならどう思いますか?

 めっちゃ驚くでしょ!?

 そういう出来事や状況って、まさに「想定外」と言うんですよね。

【想定外はなぜ起こる?】

 〈1〉本当に想定ができなかった!

 〈2〉想定はできたが情報が不完全だった!

 〈3〉楽観視していた!

 〈4〉その他

 と、こんな事が考えられます。

 2012年のロンドン五輪で、かの柔道男子代表は金メダルが「0」という歴史的汚点を残してしまいました。では監督はだれだったのか?

 篠原の心の叫び「俺やがな(涙)」

 かの篠原監督は当時、こう思ったそうです。

 「まぁ、大丈夫やろ! なんとかなるわ!」と。つまり。〈3〉の楽観視していたのだそうです(大汗)。気づいたら最悪の事態、「ハッとしたらBad」でした(涙)

 【現役時代の想定外】

そういえば。こんな事があったな。大学生の頃に初めて、国際大会のベルギー柔道国際とフランス国際の連戦で選ばれたの時のこと。

コーチの斉藤仁先生から、ベルギー国際の初日に95キロ超級で優勝すれば、最終日の無差別級は出なくていいぞ、とあって。で、翌週のフランス国際まで調整練習で構わないと。

 篠原「斉藤コーチ! ボク勝ちます! 必ず勝ちます!」

 篠原の心の声「強い選手が出ていませんよ~に」

 ということで、初日の95キロ超級に出場。準決勝までの勝ち上がり、そこで斉藤先生が「準決勝まで時間が空くからということで、ベルギー滞在の日本の方から、おにぎり、みそ汁、玉子焼きなどを頂いたので食べて構わないぞ」と言われて。

 【裸の大将に】

 で、斉藤先生と他のコーチ、私や他の選手とおいしく食べている時に、他国の選手たちがコチラを向いて何か話して来るではないか!

 篠原の心の声「おっ? サインでも欲しいのか? おにぎりが欲しいのかな?」

 篠原「ジャパニーズおにぎり、ライスボール、delicious!」などと返してると、斉藤先生が騒ぎ出して。

 斉藤先生「信一! おまえ、呼ばれてる…? 放送で呼ばれてるぞ!(汗)」

 場内アナウンス「シンイチ シノハラ ジャパン」

 斉藤先生「信一! はやく道着を着て準備しろ!」

 篠原「えっ? いま?」

 篠原の心の声「ぼっ、ぼくちん…おっ、おにぎりが好きなんだな! 試合はしたくないんだなぁ(注:『裸の大将放浪記』にて芦屋雁之助演じる山下清をイメージして発言)」

 私は手に残ってるおにぎりを口に入れながら歩きながら帯を締めて、試合場前で道着チェックを受けて間に合ったんですが…。

 準決勝戦は「始め」の合図と同時に、相手選手がいきなりタックルに!

 篠原「あっ! ヤバイ」

 無意識に身体をひねりましたが、技有を取られる。汗が逆流して焦りまくり。ここで、口から胃の内容物が出ると反則負けになってしまう。飲み込まないと!. 篠原「ゴックン(泣) 

まーダメですわ! 初めからダメですよ! 勝てませんよ! だって、息が上がって来るたびにおにぎりやたこ焼き? 何やろ? ウインナー? が、上がってくるんやもん(大汗)」

 【で、負けました】

 斉藤先生「なにをやってるんだ…。なぜ、攻めないんだ!?」

 篠原「いや…。おにぎりが…上がってきて…」

 斉藤先生「言い訳するなって。試合というモノは想定外の事が起きる! その想定外の事が起きても対応出来るヤツがチャンピオンになれるんだ」

 篠原の心声「えっ!? ビックリやわ…。あ・な・た、時間が空くって言いましたよね! あなたもいっしょにおにぎり食べてましたよね! し・か・も、選手の私よりたくさん、たらふく、もぐもぐ、もりもりと、食べてましたよね?」

 斉藤先生「負けやがって…。最終日は無差別級な」

 で、最終日の無差別級は優勝しました。

 篠原のトラウマ「オレ…この時からや…。試合の合間に物を食べなくてなったのは。ちょっとした果物かゼリーぐらいしか…」

 【想定外の練習】

 けっこうありました。2004年アテネ、2008年北京五輪では、斉藤先生が突然、夜中に打込、軍手をさせて選手に練習をさせたこともありましたね! 自衛隊の習志野空挺団にも足を運び、降下訓練(落下傘部隊の練習)もしていました。日本代表の井上康生監督は当時、高所恐怖症で飛び降りれなくて涙目になってましたが(にやにや)。

 【井上監督の実践力】

 井上監督は斉藤先生と私の考えをうまく次につないでいます。想定外を防止、対応するために以下のことを実施してます。まぁ僕らのお陰やね!

 〈1〉しっかりとした計画を立てている。行き当りばったりの行動は行う事が全て未知の世界なので。僕はやればなんとかなるでしょと思ってましたが(汗)

 〈2〉想像力を膨らませている。いつ何が起こるかを想定している。あらゆる場面を想定したパターンの練習をしてます。私も考えてましたよ! ですが、考えることに疲れてました(汗)

 〈3〉シミュレーションを徹底している。頭で考えることと実際に動くことの違いをしっかり想定し、シミュレーションしている。試合に備えたリハーサルはきっちりとやっています。井上監督は私の失敗を上手くいかしているんです!

 【ちなみに】

 23日で46歳になりました! 想定外の誕生日プレゼント、お待ちしております!

 ◆篠原信一(しのはら・しんいち)1973年1月23日、神戸市出身。46歳。中学1年で柔道を始め、育英高、天理大を経て旭化成に入社。98~00年まで全日本選手権3連覇。99年世界選手権で2階級(100キロ超級、無差別級)制覇。2000年シドニー五輪100キロ超級銀メダル。03年に引退。08年に男子日本代表監督に就任し、12年ロンドン五輪で金メダル0の責任を取る形で辞任。

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