【篠原信一の柔道一本】篠原流「五輪への7か条」~
第6章は「緊張」と「緊張感」の違いについて。
▼篠原流『五輪への7ヶ条』
【1】筋力アップ
【2】たくましい精神力を作る
【3】新しい技術の獲得
【4】想定外を常に考える
【5】世界の情報を収集、分析する
【6】常に緊張感のある練習をする
【7】総合力を高める
今回は【6】の話です。
「緊張感のある練習」をあなたはしてますか?
「はい、試合の1週間前から緊張感を持って練習に取り組んでます!」 なんて言っている、ア・ナ・タ! ダメよぉ~ダメダメっ(古っ) 緊張感とは…。あっ、チョット待ってググルから(笑)
「張りつめた気持ち、注意ぶかくなり、気持ちがよく高ぶっているさま」
で、あります。「試合の直前にできるって!」「その日だけで十分っしょ!」と言える人はごくごく一部。ほとんどの人は、緊張して当たり前で、試合の時と同じ様にふだんの練習から緊張感を持った練習をしないといけません。
試合の後でよく「緊張した」「緊張し過ぎて負けた」などなど、いろんな言い訳を耳にします。
実は「緊張」と「緊張感」は違うんです(偉そうに解説しますが、私は知りませんでした、汗)
【緊張と緊張感の違い】
「緊張」とは本番に臨んで自信や実力がない人が感じるストレスのこと。
「緊張感」とは本番に臨んで自信や実力のある人が受けるストレスなんです。
では「緊張してしまう」という人はどうすれば良いのでしょうか? はい。勝ち負け関係なく思い切りやればいいんですよ!
では「緊張」を「緊張感」に変えるにはどうすれば良いのでしょうか? 常に本番に近い緊張感を想定した練習をすることです。それが自分の実力を出すことにつながります。すると、練習と試合の本番は全く雰囲気が変わってきます。
【12年ロンドン五輪】
私が男子代表監督だったロンドン五輪の時のこと。試合会場での調整練習はノリノリでみんな絶好調でした。周りの雰囲気も明るく、私も冗談を言ってリラックスさせていました(と、思う)。ところが。大会が始まってからは、一気にチームの雰囲気が変わってしまいました。結果は史上初の金メダル0…。明るい雰囲気で伸び伸びとさせるのが一番と思っていたんですけど。選手達に試合時における状況判断や自己判断が出来る様な指導していたら…。
井上康生監督と比べると、私の場合は言葉が雑で、なかなか意図が伝わらなかったかなぁ。「ぐずぐず言わんでやらんかい!」って感じで、面倒くさいから細かいことは言わなかったな…。
井上監督は選手への伝え方が優しく丁寧ですねぇ。選手の「なぜ?」への理解が重要と考えて、細かすぎるほどにミーティングを実施しています。
練習の内容と比べると…。
▼篠原監督時代 とにかく追い込んだ練習。乱取りの本数、ランニングなど強度のあることをけっこうしてました。
▼井上監督 乱取りの本数やランニングの時間が少なくなり、その分、研究や学習の時間が増えましたね。また、ウェートトレーニングを多く導入して。大会前にウェートを実施する選手も増えました。
あかん! ナンボでも出てくる(大汗)
【現役時代の篠原】
私の現役の時はイヤホンして歌や曲を聴いてモチベーションを高めている選手がほとんどでした。しかし! 篠原信一は歌や曲を聴いていると、ついつい試合の事を考えて緊張してしまうタイプでありました。なので、そういうことは一切せず、所属の関係者や付き人、仲間とひたすら雑談をしていました。
現役時代の篠原「今日は調子がいいから、2分以内で勝ってくるわっ!」
仲間たち「ホンマか~」
現役篠原「じゃあ、2分以内で勝ったら焼肉おごってや~!」
大会前は全ての出場選手が同じ控室に集まります。なので、ガヤガヤとしてますが、ベスト8ぐらいから控室も空いてくるので、対戦するかもしれない選手が近くにいます。で、歌や曲を聴かない篠原は、話かけたりしていましたが、気がつくとだれも私に寄りつかなくなることがありました。
みなさん、これも私自身が過緊張をしないための方法だったのですよ! 勘違いしないで下さいよ! 他の選手に話かけていましたが、試合に関係のない雑談ですって。まぁ、私ぐらいになると無心というよりも自信があり過ぎて邪心や煩悩が多過ぎましたな! だから肝心な時にポカをしてしまうのでした(汗)
ちなみに最近、このコラムで自己反省をしているものですから、仲間から「おまえ、成長したな」ってほめられるんですよ!(ドヤ顔)
【康生ジャパンでは】
16年リオ五輪の井上康生ジャパンでは、ピーンと緊張感の漂う雰囲気で本番を想定した状況で調整練習をしていたそうです。康生ジャパンは、この「緊張」と「緊張感」の違いを選手はしっかり理解していたそうで、まさに緊張感のあふれる雰囲気だったと(さすが井上康生! 篠原ジャパンの一員としてロンドンの反省を活かしてくれてるわ!)
監督交代の時に言ったんですよね…。
篠原「俺の反省、検証を生かしてくれ」
井上監督「(微笑んで一言)大丈夫です。私は先輩とは違います」
って言ってたなぁ(汗)。
「信一! 緊張感を持ってやれよ!」。今になって私のコーチだった斉藤仁先生が言っていた、本当の意味が良く分かります。昔は煩わしかったり、面倒くさかったりしましたけど…。大事だったな…(反省)。
なので、人の意見は素直に聞くことが肝要であります! ただ、練習でも内容によってはリラックスしてやる必要もあります。研究や新しい技に挑戦する時はリラックスして頭をクリアにする事も肝心なんですよ。
◆篠原信一(しのはら・しんいち)1973年1月23日、神戸市出身。46歳。中学1年で柔道を始め、育英高、天理大を経て旭化成に入社。98~00年まで全日本選手権3連覇。99年世界選手権で2階級(100キロ超級、無差別級)制覇。2000年シドニー五輪100キロ超級銀メダル。03年に引退。08年に男子日本代表監督に就任し、12年ロンドン五輪で金メダル0の責任を取る形で辞任。