阿炎、鶴竜に恩返し金星 元付け人「泣いちゃった」

スポーツ報知
鶴竜(左)を突き出しで破った阿炎(カメラ・能登谷 博明)

◆大相撲名古屋場所5日目 ○阿炎(突き出し)鶴竜●(12日・ドルフィンズアリーナ)

 前頭3枚目・阿炎が恩返しの金星を挙げた。結びで3連覇を目指す横綱・鶴竜を突き出しで下す殊勲の白星。阿炎の金星は先場所の白鵬に続き2場所連続2個目だが、今回は幕下時代に付け人を務め、多くを学んだ横綱からの意義深いものとなった。新大関・栃ノ心と関脇・御嶽海は初日から5連勝。幕内200勝を挙げた前頭6枚目・遠藤、大関・高安ら7人が1敗で追う。連敗の鶴竜は2敗に後退した。

 無我夢中だった。阿炎が感謝を込めて鶴竜に強烈なもろ手突きを食らわせた。2年前まで付け人を務めていた横綱を突き出して、先場所の白鵬戦に続く金星をゲット。「よく覚えていない。とにかく攻めよう、攻めて負けたらしょうがない。涙を我慢するので精いっぱいだったけど、花道を過ぎて泣いちゃった」。館内に舞う座布団が顔に当たって、ようやく我に返った。

 正真正銘の恩人だ。十両から幕下に落ちていた16年名古屋場所で6連敗の負け越し。「ダメなんだ俺は…、もう終わったな」。相撲をやめようとまで思い詰めていた阿炎が鶴竜の付け人になったのはその直後だった。

 腕立て伏せを1日300回など肉体的な助言だけでなく、一番近くで見た人間性に心を動かされた。「人に対する接し方。勝っても負けても変わらず(報道陣に)受け答えする。人としての中身を、この人から学べば(関取に)戻れると思った」と奮起。昨年名古屋で十両に復帰すると、わずか1年で三役目前の番付まで一気に駆け上がった。

 全力でぶつかることしか考えていなかった。土俵に上がれば横綱といえどもライバル同士。場所前の鶴竜との稽古で7戦全敗し、師匠・錣山親方(元関脇・寺尾)から叱責された。「当たる番付なので勝つイメージしかない。勝つのは一つの目標」と、先場所敗れた雪辱も両腕に込めた。

 報道陣が殺到した支度部屋。「付け人時代の話をするとウルウルしちゃう。感謝しかない」。最後は正座までして丁寧な受け答え。これまで学んだ心技体のすべてが、結びの一番に表れた。(小沼 春彦)

 ◆付け人 十両以上の力士に配属される幕下以下の力士。まわし(化粧まわし含む)のつけ外し、入浴などを手伝う。十両、幕内では1~2人で大関には3~4人。横綱になると土俵入りの綱を締めるため10人ほどの“チーム”になる。少数部屋の場合は他の部屋から借りる。現在の鶴竜には井筒2人、八角3人、高砂、錦戸、中川から各1人の計8人がつく。師匠から「付けて」もらうため、付「き」人でなく付「け」人。

 ◆阿炎 政虎(あび・まさとら)本名・堀切洸助。1994年5月4日、埼玉・越谷市生まれ。24歳。千葉・流山南高を卒業した13年夏場所に錣山部屋から初土俵。15年春場所で新十両、今年初場所で新入幕、10勝して敢闘賞を獲得。187センチ、140キロ。得意は突き押し。左利き。

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