稀勢の里、勝ち越し王手 9場所ぶり大関戦も気迫で栃ノ心ねじ伏せた

スポーツ報知
寄り切りで栃ノ心を下し土俵下まで追い込んだ稀勢の里(右、カメラ・竜田 卓)

◆大相撲秋場所9日目 ○稀勢の里(寄り切り)栃ノ心●(17日・両国国技館)

 8場所連続休場からの復活に挑む横綱・稀勢の里(32)=田子ノ浦=が、大関・栃ノ心(30)=春日野=を今場所一番の熱戦の末に破り、勝ち越しに王手をかけた。

 過去に苦汁を飲まされ、3連敗中だった難敵を得意の左四つで撃破。前日8日目に小結・玉鷲(33)=片男波=に完敗したショックを振り払い連敗を回避し、同時に引退危機も遠ざけた。残り6日。横綱審議委員会が“提示”した復活ノルマの10勝へ大きく視界が開けた。

 これが綱の意地だ。稀勢の里にとっては新横綱Vを成し遂げた昨年春場所千秋楽の照ノ富士戦以来、9場所ぶりの大関戦。カド番脱出に燃える栃ノ心との対峙(たいじ)に、国技館は緊張感で張りつめていた。

 立ち合いの差し手争いで左をねじ込むと、右上手も引いた。怪力自慢の大関が苦し紛れに4度、試みた下手投げにも動じず一気の寄り切り。地鳴りのような歓声にも表情は崩さない。今場所2度目の連敗危機を7日目に続いて回避した。「いい流れ? うん」。支度部屋で発した短い言葉に手応えを凝縮。生命線の左四つで進退問題クリアへ大きく前進した。

 直近3連敗中の天敵を撃破した。自身が大関時代の16年九州場所は3横綱を撃破しながらも、13日目に当時平幕の栃ノ心に下手投げで敗れ、優勝争いから脱落。今年5月の出稽古でも完敗し、夏場所全休の引き金になっていた。

 会心の取り口を先輩横綱も絶賛した。八角理事長(元横綱・北勝海)は「左四つが良かった。(栃ノ心が)下手投げを連発しても右上手を取っていたからね。自分の形」とうなった。7場所連続全休から02年秋場所に12勝を挙げた貴乃花親方(元横綱)は土俵下から見つめ、「落ち着いていますね。見ていて頼もしい。土俵で緊張を気迫に変えて本来の力を出す。今日はそんな一番。左を差して攻めるのも慌てない。(相手を)起こしながら出て行く。稀勢の里が実力者たるゆえん。苦境を乗り越えようとしている姿がお客さんの胸を打つ」と、自身の再起と姿を重ねた。

 あと1勝で勝ち越すだけでなく、幕内通算白星6位の日馬富士(元横綱、712勝)にも並ぶ。04年九州場所で同時入幕し、17年春場所13日目の対戦で負傷し、8場所連続休場の原因となったライバルの記録に、進退をかけた場所で挑むのも運命を感じさせる。10日目は角界随一の人気を誇る遠藤との一戦。最後は「しっかりと、やれることをやっていきたい」と淡々と締めた。次も一気に決める。(小沼 春彦)

スポーツ

×