紀平、5戦全勝!「スケートで人生を生きたい」小学6年の文集に込めた思い

スポーツ報知
紀平梨花

◆フィギュアスケート 四大陸選手権(8日、米国・アナハイム)

 【8日=高木恵】女子フリーが行われ、ショートプログラム(SP)5位の紀平梨花(16)=関大KFSC=が3回転半ジャンプ(トリプルアクセル)を決め、フリー1位の153・14点、合計221・99点で逆転優勝した。シニア1年目の今季の国際大会は5戦5勝。3月の世界選手権(さいたま)へ弾みをつけた。全日本選手権女王でSP2位の坂本花織(18)は206・79点の4位で連覇を逃した。17年大会覇者の三原舞依(19)=ともにシスメックス=が207・12点で3位。

 ガッツポーズに女王の貫禄があふれ出た。紀平は達成感に満ちた表情で、日の丸が揺れる会場を見渡した。得点が表示されると、また笑顔。「153って、すごい高いじゃん」。トリプルアクセル1本で自己ベストに1・58点に迫る完璧なフリー。「絶対にミスは許されないと思っていた。いつもより集中できていた」。約5点差をひっくり返し、シニア転向後の国際大会5戦全勝を飾った。

 演技前に浜田美栄コーチから、臆病なライオンが勇気をもらう旅に出る名作童話「オズの魔法使い」の話を聞かされた。開幕前に左手薬指を亜脱臼。抱えた不安を振り切り、4分間の旅に踏み出した。冒頭の3回転半を決めて流れに乗った。「無理せずに、安全にいい順位を残せるように1本にした」。続く連続ジャンプは3回転半ではなく2回転半を選択した。本番リンクの感触をつかみ切れていないことを冷静に判断した。

 薬指と小指をテーピングで固定しているため、ジャンプで体を締める際に5本の指を握れない。「指が伸びていることで空気抵抗が大きくなってしまっていた。もっと強く速くというのを意識して跳んだ」。朝の公式練習から意識改革。体正面の中心に集める右手をいつもより右に寄せ、SPで失敗した大技を成功。恩師の「ライオンになれたね」の言葉がうれしかった。

 2014年、兵庫・西宮市の大社小学校6年生の時に書いた文集「夢に向かって」は、まるで予言集だ。当時、GPシリーズNHK杯の花束ガールに選ばれた。「たくさんのトップスケーターを近くで見て、また私は大きく成長した。将来、私はその場所で花束をたくさんもらえる選手になる」。4年後に夢を現実にした。昨年のNHK杯で日本人初のGPシリーズデビュー戦優勝し、花束に包まれた。

 願望ではなく、断言する文章が続く。「軽い気持ちではなかったんだと思う」とその頃を振り返る。「あの時から忙しくやっていたので、なんとかしてスケートでやっていけるようにしたいなって。スケートで人生を生きたいというか」。学校に通う時間も限られた。睡眠時間を削って朝と夜の練習に明け暮れた。「趣味程度にしかやっていなかったら、そういう文集にはならなかった」。並々ならぬ覚悟が込められていた。

 試合を重ねるたびに、16歳の強さは増していく。「どんなハプニングがあっても、前を向いてあきらめずにやっていこうと思えた。世界選手権ではショート、フリーでミスのない演技をしたい」。文集には「必ず、オリンピックで優勝して、コーチになる」と書いた。3月の世界選手権で再び頂点に立ち、3年後の北京五輪まで“無敗ロード”を駆け抜ける。

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