リレハンメル複合金の阿部雅司さん「人生変わった」名寄市盛り上げ隊長

2018年9月15日13時0分  スポーツ報知
  • リレハンメル冬季五輪のノルディックスキー複合団体で金メダルに輝いた(左から)河野孝典、阿部雅司、荻原健司
  • 小学生に短距離指導する阿部さん
  • 歩くスキー教室で先頭に立つ阿部さん
  • ノルディックウォーク講習会を行う阿部さん

 1994年のリレハンメル冬季五輪・ノルディックスキー複合団体で金メダルを獲得した阿部雅司さん(53)は、人生の「セカンドステージ」として“市職員”を選んだ。自宅のある札幌市から200キロ以上離れた名寄市に単身赴任。2016年4月に同市の特別参与・スポーツ振興アドバイザーに就任後、ジュニア選手の指導に加え、小学生からお年寄りまでの体力・健康増進に貢献。専門のスキーや趣味のランニングを通じ、人口約2万8000人の街に元気と活気を注入している。

 95年に引退後、2014年のソチ五輪まで日本代表コーチとしてノルディック複合チームを引っ張ってきた阿部さん。競技生活に区切りをつけた半年後、思わぬオファーがあった。

 「ソチ五輪があった年の10月、名寄市の加藤剛士市長(47)から『こっちに来てスポーツで名寄を盛り上げてくれませんか』と頼まれた。ただ、市長のお話には具体的な内容がなかった。当時は(勤務先の)東京美装興業に戻ったばかり。お世話になってきた会社に仕事で恩返ししようと決めていて、いったん断った。その1年後、市長から『阿部さんを受け入れる態勢を整えました』という連絡が入った」

 加藤市長から改めて提示されたことは〈1〉名寄市を冬季スポーツの拠点とする〈2〉市のスポーツを盛り上げる「スポーツ・合宿推進課」を新設〈3〉阿部さんには新構想のトップに立って働いてほしい―の3点だった。

 「そこまで考えてくれていたんだ、と心が動いた。妻の智佐子(53)は『一度の人生だから好きなことをやった方がいい』、東京美装スキー部の同期だった須田健仁(52)=92年アルベールビル五輪などのスキージャンプ元日本代表=は『これからもスキーで頑張れる。お前には一番、幸せなこと。話を受けろ』と背中を押された。決断まで時間がかかったけど、今は『人生が変わった』と思ってます」

 16年4月、名寄市の特別参与・スポーツ振興アドバイザーに就任。自宅のある札幌市から200キロ以上離れ、車でも片道3時間はかかる人口約2万8000人の小さな街に単身赴任し、月~木曜は名寄で働き、イベントの多い週末は札幌で過ごす生活になった。

 「最初の大きな仕事はJSC(日本スポーツ振興センター)からの委託事業。ナショナルチームに入れそうな有望な中高生を発掘するため、名寄でローラースキーの競技会などを開催した。視察に来たJSCの豊田太郎トレーナー(40)と知り合い、『今、名寄にはしっかり教えられるプロが必要なんです』と口説いたら本当に来てくれた。そこから活動が加速した」

 阿部さんの働きかけで、豊田さんは昨年4月、市の職員として採用された。バンクーバーとソチパラリンピックのアルペンスキーで3個の金メダルを獲得し、今年5月から拠点を名寄に移した狩野亮(32)、全日本の強化指定を受けるバイアスロンとエアリアルの男女高校生3人の計4人を指導。このほか、地元小学校の体育授業支援活動を行っている。

 「名寄の子供は冬になると体力が低下する。昨夏から豊田さんと私が毎月1回ある小学校の3、4年生の走り方やストレッチを指導すると、翌春に20メートル走などのタイムがアップした。市の教育委員会も実績を認めてくれ、今は6校の体育の授業をサポートするようになりました」

 阿部さんにはもう一つの顔がある。日本代表コーチ時代の01年から、市民ランナーとしてマラソン大会に出場。フルは2時間43分57秒(04年、旭川)、100キロは7時間52分57秒(07年、サロマ湖)まで記録を伸ばした。そのランニングも仕事だ。

 「名寄に来てすぐ、『マサシナイトランクラブ』を立ち上げた。現在は中学生から84歳のお年寄りまでの約100人が登録。水曜午後6時半から1時間、吹雪の日も走る。夜に参加できない人のため水曜朝6時半からのモーニングランもスタート。大勢の方が走る姿を見た青年会議所は今夏、15日間、毎朝30分走る『なよろがっちりRUNデー』を企画。僕もゲストとして一緒に汗を流しました」

 このほか、走ることができない年配の方を対象にした「ノルディックウォーク講習会」、少年の非行を防止する「見守りナイトラン」も月1回実施する。

 「走って歩くイベントに参加することで、スポーツに興味を持ってくれる人が増えてます。隣町の下川町はジャンプの町として有名で、岡部孝信や葛西紀明らのメダリストを出しているけど、名寄出身の冬のメダリストはいない。市民はどこかスポーツに冷めた感じで、そこを熱いものに変えていこうというのが市長の望み。僕の役目はその環境づくりで、地道に努力していきたい。60歳過ぎに花開けばうれしいですね」(取材・桃井 光一)

 ◆阿部 雅司(あべ・まさし)1965年8月13日、北海道小平町生まれ。53歳。中学からスキーノルディック複合を始め、東海大四(現東海大札幌)、東京美装で活躍。94年のリレハンメル五輪、93年と95年の世界選手権・複合団体で金メダルを3個獲得。95年に引退し、2014年のソチ五輪まで日本代表コーチ。16年4月から名寄市の特別参与に就任。札幌オリンピックミュージアム名誉館長、スペシャルオリンピックス日本理事なども務める。175センチ、61キロ(現役時64キロ)。家族は夫人と1男1女。

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