羽生善治九段、NHK杯11度目V 一般棋戦優勝回数45回

スポーツ報知
平成の31年間で11度の優勝となった羽生九段

 圧巻のV11―。羽生善治九段(48)が17日にNHK Eテレで放送された「第68回NHK杯テレビ将棋トーナメント」決勝で郷田真隆九段(48)を破り、11回目の優勝を飾った。一般棋戦優勝回数は45回となり、並んでいた故・大山康晴十五世名人を抜いて歴代単独最多となった。平成元年に初Vを飾り、平成最後のNHK杯を制したレジェンド。無冠転落も味わった18年度の最後に頂点を極め、健在を示した。

 奨励会入会同期の盟友でもある郷田を破り、7年ぶりにNHK杯を制した羽生は、淡々と偉業を振り返った。「間が空いていたので今回優勝できて非常にうれしく思っています。数字は特別意識していたわけではなかったのですが、ひとつ前進することが出来て良かったと思います」。高揚感を一切感じさせない冷静な口調で語った。

 生涯記録における唯一の比較対象と言える大山十五世名人を超え、一般棋戦優勝回数の頂点に立った。

 「大山先生の頃とは時代背景とか棋戦の数とかが全く違います(棋戦数は現在より少なかった)ので数だけで比較することではないと思ってますけど、大山先生を学んでこれから先も前進していけたらと思います」。再び「前進」という言葉を口にした。

 11度のNHK杯制覇は、羽生が刻んで来た栄光の中でも特に難易度の高い記録と言っていい。前年優勝者でも、タイトル戦のように決勝を「防衛戦」として戦えるわけではなく、トーナメント初戦から無敗で勝ち上がっていかなくてはならない。今大会は高野智史四段(25)、菅井竜也七段(26)、豊島将之2冠(28)、丸山忠久九段(48)、郷田という各世代の強豪5人を連破。過去2年でタイトルを奪われた菅井、豊島には雪辱した。

 「優勝を意識するような感じではなかったので、勝ち進むことが出来たのは幸運だったなあと思います」

 NHK杯は持ち時間各10分と計10回の1分の考慮時間で行われる早指し棋戦。「瞬発力を要する早指しは若手有利」が将棋界の定説だったが、今大会のベスト4は羽生、郷田、丸山、森内俊之九段(48)。「羽生世代」と呼ばれる同学年の棋士ばかりとなった。羽生世代がベスト4を独占したのは2001年度(佐藤康光九段、森内、羽生、藤井猛九段)以来17年ぶりのことだ。

 「気が付いて周りを見たら同年代の人ばかりでした。今までなかった傾向だったので、こういうこともあるんだなあと。(同世代の奮闘で)さらに頑張っていこうという気持ちになれたトーナメントでした」

 48歳カルテットの進撃は、現代将棋における新たな可能性の象徴とも言える。持ち時間の長い棋戦での定跡勝負では、徹底的にAI研究を尽くす若手が上回っても、いざ早指しの力戦で未知の局面に突入した時は、年長者に一日の長があるという視点だ。羽生も認める。

 「若さによる早見え(ある局面において最善手を発見するスピード)の強さはありますけど、一方で、年齢を重ねれば経験値の部分には可能性があるかと思っています」

 羽生は新四段時代の1986年度にNHK杯初登場。88年度には大山康晴、加藤一二三、谷川浩司、中原誠という名人経験者4人を破って優勝。中原との決勝は平成元年2月だった。当時18歳の少年は30年後、平成最後のNHK杯でも頂点に立った。

 「気が付いてみると、ずいぶんと長きにわたって参加していたんだなあ、ということは実感としてあります。30年前、対戦する人は全員先輩でした。今は若手の人と対戦するのは自然の流れですけど、自分自身がどれだけ頑張っていけるか。長いこと続けていると様々な時期がありますけど、今の自分が出来ることに集中していけたらと思います」

 2018年度は棋聖、竜王を失冠。27年ぶりの無冠に転落した屈辱の年になったが、年度の最後を優勝で終えた意味は大きい。19年度は再びタイトル獲得通算100期に挑む。

 「年度が切り替わるタイミングでひとつ結果が残せたので、前に進む推進力になればいいなと思います。タイトルは…うまくいった時、チャンスを目指していきたいです」。羽生善治は再び「前に進む」と言った。(北野 新太)

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