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灰皿からたばこを拾って火を着けた西部邁さん あの笑顔が忘れられない

2018年1月21日21時36分  スポーツ報知
  • 久保記者のインタビューを受ける西部邁さん

 評論家の西部邁さんが21日、都内の病院で死去した。東京都大田区の多摩川で自殺を図り、溺死したとみられる。78歳だった。

 × × ×

 2010年7月。東京・新宿のホテルで西部さんの取材をした。「小沢一郎は背広を着たゴロツキである 私の政治見聞録」(飛鳥新社)についてのインタビューだった。

 「珍しいなあ、報知新聞の取材って。僕の本でいいの? 僕はこう見えて、実は新聞記者になりたかったんだよ」

 学生時代、西部さんの著書を読みふけった。スペインの哲学者、ホセ・オルテガ・イ・ガゼットの「大衆の反逆」からヒントを得た「大衆への反逆」、「国民の道徳」…。自分が果たしてどうなるか、先行きの見えなかった20代前半。西部さんの著書が物事を考える大きなきっかけになったことを覚えている。

 下手な質問をしたら、一蹴されてしまうのではないか。だが、西部さんは緊張して無知な私に語りかけるように、若いころの夢から本を書いたきっかけまで話してくれた。国家、歴史、経済について触れながら、親子ほど年の離れた目の前の記者に丁寧に言葉を尽くしてくれた。そこに、教育者としての西部さんの姿を見た気がした。

 取材時間は30分の約束だったが、時計の針はどんどん進んだ。

 「昔、プロ野球で、金銭トラブルになった選手がいてね。あまりにも世間がバッシングするものだから、テレビで『自分が稼いだ金を使って、何が悪いのか』と言ってやった。そしたら、その球団の方からとても感謝されて…」

 政界、財界、多くの学生まで、その魅力的な人柄が人々を引きつけたのだろう。

 1時間半が経過すると、西部さんのたばこが切れた。「たばこ、大丈夫ですか」と席を立とうとすると、「いいよ、いいよ」と言って灰皿からたばこを拾い、火をつけた。

 「学生時代は貧乏だったからクセなんだよな。でも、これでいいんだ」

 決して気取らず、偉ぶらず。

 「これから夕食会があるんだ。良かったらどうだい?」

 次の予定があった。

 「じゃあ、また、話そう。インタビュー、ありがとう。あとはうまく書いておくれよ」

 あの時の笑顔が忘れられない。ご冥福をお祈りいたします。(文化社会部 久保 阿礼)

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