お笑いパワーで再犯ゼロ!刑務所も称賛した吉本興業元専務・竹中功氏のユニーク講義

2017年8月19日12時0分  スポーツ報知
  • 笑顔でインタビューに応じる竹中功さん(カメラ・頓所 美代子)
  • 「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す」

 横山やすし・西川きよし、明石家さんま、ダウンタウンらお笑い芸人を輩出してきた吉本興業に35年間勤め“名物専務”として知られた竹中功さん(58)が、このほど「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す」(1404円、にんげん出版)を刊行した。2015年2月から山形刑務所で「満期出所者」向けの釈放前教育の一環として「お笑いコミュニケーション」の講義を行い、指導した約100人の中に再犯者はいないという。刑務所も称賛する、そのユニークな講義とは…。(江畑 康二郎)

 「人生はやり直しが利く。そのためにはコミュニケーション力が必要。相手や自分のことが分かった上で、できることは自分で全てやる。できないことは助けてもらったらいい。心のキャッチボールが上手になれば楽しく生きていける。そこに『笑い』が必要なんです」。竹中さんは執筆理由について、こう語った。

 人間の喜怒哀楽をユーモアたっぷりに描く吉本新喜劇を見て育った。1981年に吉本興業に入社し、新たに設置された宣伝広報室に配属された。上司2人しかいない中、翌82年に芸人養成学校の吉本芸能総合学院(NSC)の設立に尽力。1期生に後のダウンタウン、トミーズ、ハイヒールら約130人が入学し、生徒の指導も行った。

 一方で、所属タレントが事件・事故などに関与した際の報道対応も担当。11年の島田紳助さん(61)の引退会見、12年の河本準一(42)の生活保護受給問題の会見などを仕切った。関連会社の代表取締役まで務めたが2年前に退社。「60歳になってくたびれてから同じことするなら、辞めてもいいかなと。やりたいことを突き詰めたかった」

 14年、秋田で初めて刑務所を見学。秋田刑務所から受刑者の社会復帰を支援するための刑務所慰問の依頼が同社に舞い込んだ。約500人の受刑者の前で「お笑いを目指す若者たちの純粋な夢」を語り「男らしさとは勇敢さ、精神力の強さ、人から頼られる人物の器量。漢字の漢と書いてオトコと読む。漢ならシャバで漢になってほしい」と80分間訴えた。

 慰問から1年間、秋田刑務所内でのケンカがなくなったといい「吉本興業の養成所の生徒が聞いている話はそのまま受刑者にも役立つ」と評判に。講話を聞いた山形刑務所の教育担当の刑務官から「満期出所者向けの教育プログラムを実施してほしい」との依頼が届き、快諾した。現在まで毎月1回、ほとんどボランティアで行っている。

 山形刑務所は、男性受刑者約1000人を収容する刑務所。初犯が多いが、殺人などによる懲役10年以上が約700人、無期懲役が約100人を占めるという。

 「満期釈放前教育」は満期出所者を対象に釈放1か月前から行われ、受講者は各回3~6人。竹中さんのユニークな講義内容は、会話の基礎となる「コミュニケーション力」、受刑者自身の記憶を遡る「自分史」、頭を柔軟にする「なぞなぞ」、現代社会で深刻化している「ハラスメント」の4コマ(各50分)。「なぞなぞ」は刑務官からも好評といい「例えば、円すい形を描きましょうと言うと、(受刑者は)いろいろな形を描く。真横から見たら二等辺三角形、上から見たら円の中に点があるだけ、下から見たら円。ひらがなで『えんすいけい』と書く人もいる。世の中には答えがたくさんあることも知ってもらう」。

 受刑者と距離が縮まったと感じたという「自分史」の講義では「10歳の頃の自分にインタビューしてもらい、最後になりたい職業を聞いてきてもらう」。受刑者が自身への質問と答えを書いている間に教壇を降りて、「字が下手な人には『字を間違えてるよ』と話し掛けたりする」。子供の頃になりたかった職業に「大工さん」を挙げ「家具職人になりました」と夢をかなえたことを話した受刑者に、竹中さんが「よかったやん。でも、今はここにおるけどな」と冗談めかすと、厳粛な雰囲気の中で少し笑いが起きたという。

 受刑者と接する時は、名札の「名前」で呼ぶ。「年上だったら『さん』付け、若い子だったら『ちゃん』付けで呼ぶ。呼ばれた人は10年ぶりに『さん』付けで呼ばれたような顔をする。呼ばれた瞬間、目の輝きが違うんですよ」

 身元引受人がいないなどの理由で、仮釈放者より再犯率が高いという満期出所者だが、竹中さんが教えた約100人から再犯は出ていないという。「山形刑務所が『自慢だ』と言っていた」とうれしそうに笑った。

 ◆竹中 功(たけなか・いさお)1959年2月6日、大阪市生まれ。58歳。81年、同志社大法学部卒業。97年、同大学院総合政策科学修士課程修了。81年、吉本興業入社後、宣伝広報室に配属され、月刊誌「マンスリーよしもと」初代編集長に。プロデューサーとして心斎橋筋2丁目劇場、なんばグランド花月などの開場に携わる。2012年、よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役、14年、よしもとアドミニストレーション代表取締役に就任。15年7月、退社。現在、株式会社モダン・ボーイズのCOO。

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