外国人力士差別対策待ったなし!星野智幸さんが警告「相撲で起こることは社会でも起きる」

2018年1月16日12時0分  スポーツ報知
  • 貴ノ岩の前さばきのうまさが好きでファンになったという星野さん。「秋巡業でサインをもらった直後に事件が起きてしまい、ショックでした。早く元気に戻って来てほしいです」
  • 星野智幸著「のこった もう、相撲ファンを引退しない」

 大相撲をこよなく愛する作家・星野智幸さん(52)の「のこった もう、相撲ファンを引退しない」(ころから、1728円)は、14日に初日を迎える初場所観戦を楽しむ相撲ファンに一読をお薦めしたいエッセー集だ。横綱・稀勢の里(田子ノ浦)ら日本人力士へのファンの期待が高まるのは当然だが、星野さんが懸念しているのは最近、館内で飛び交うようになってしまったモンゴル勢を始めとする外国出身力士への心ないヤジや罵声。果たしてこのままにしておいていいのか。(甲斐 毅彦)

 「自分は相撲ファンなんだ」と星野さんが自覚したのは1978年頃。13歳の時だった。憎らしいほどに強い横綱・北の湖に挑むライバル横綱・輪島や大関・貴ノ花(初代)の奮闘ぶりに、手に汗を握った。80年代には横綱・千代の富士を苦しめ、いぶし銀の風情があった花乃湖(最高位・小結)のひいきとなった。そして相撲巧者を求める星野さんの理想像を具現化したのは、平成の大横綱・貴乃花だった。

 「入門からずっと見ていてストイックな姿が好きでした。基本に忠実で、絶対に引かない。僕が新聞社を辞めて文学の世界で書き続けようと決めたのには、貴乃花の影響がありました。一途(いちず)に道を貫けば、道は開けるかもしれない、と」

 相撲道にまい進する貴乃花に刺激を受けて、星野さんも数々の文学賞を受賞し、作家としての地位を築いていった。そして2003年初場所、貴乃花は完全燃焼し、引退。「わが人生を託して信奉してきた」ほどの大横綱が土俵を去り、同時に星野さんも相撲ファンを「引退」した。

 再び相撲に目を向けたのは横綱・白鵬が千代の富士と並ぶ31回目の優勝を遂げた14年秋場所から。15年初場所では横綱・大鵬の最多記録(32回)を超える33回目の優勝の瞬間を見届けようと、13日目に両国国技館に足を運んだ。稀勢の里を下した白鵬の相撲っぷりに感銘を受け、相撲ファン「復帰」を決意したが、がく然としたのは、あまりにも「日本人ファースト」に偏っている館内の空気だった。外国人力士を「敵」とみなし、差別とも取れるような声が飛ぶと、笑い声が飛び、盛り上がったりしてしまう。

 「以前は『日本人力士がんばれ!』みたいな差別的な応援は聞いたことがありませんでした。(ハワイ勢全盛期にも)記憶にはないですね。国技館に来るファンが違和感を持って『これはおかしい』と言わないと、この空気はどんどん拡大してしまうという危機感がありました。これを言葉にするのは自分の使命だな、と思って書くことにしました」

 お金を払って見に来たファンが、ひいきの力士に声援を送り、無気力な相撲を取った力士にブーイングするのは、もちろん「あり」だろう。だが、著しい侮辱や地域社会からの排除をあおる「モンゴルへ帰れ」というような言葉は、16年に施行された「ヘイトスピーチ解消法」が禁じる差別煽動(せんどう)の言葉にあたる。星野さんは「相撲で起きることは社会でも起きる」と考え、これを看過できなかった。

 「土俵の上では平等なのが相撲の良いところです。相撲が日本社会の差別をリードして良いわけがない。『国技』だからというのは、外国人差別を正当化する理由にはなりません。親方衆の研修をして、法に触れるような言動を野放しにしないよう観戦のルール作りをやるべきです。12月の冬巡業中にも、日馬富士の暴行事件を受けて『白鵬が一番悪い』と書かれたプラカードを持ち込んだ観客がいましたが、これを協会が許すこと自体があり得ないことです」

 もちろん、角界が差別の温床となることを好まない人たちも少なくない。最近の「スー女」(相撲好きな女性)には権威や国籍には囚(とら)われない自由な気質があるという。また、昨年秋場所千秋楽では、3横綱が休場する中で出場したモンゴル出身の横綱・日馬富士への声援が、大関・豪栄道への声援を上回るという現象が起きた。「変わる契機が生まれてきたのかな」と期待していたところで発覚してしまったのが、日馬富士による同じモンゴル出身力士の貴ノ岩への暴行事件だった。

 「暴力は指導の一環で、仕方がないという11年前の事件(07年6月の時津風部屋力士暴行死事件)の体質がまだ相撲界に残っていた。手を出した日馬富士がもちろん悪いですが、一般社会では通用しない体質を残していた相撲協会には“処罰”がないのか、と問いたい。同席していた白鵬と鶴竜には処分(減給)を出しましたが、協会が力士に責任を押しつけているような印象を持ちました。危機管理委員会があるとはいっても、刑事事件が起きた時の対応も全く想定されていなかったことは問題視されてもいいと思います」

 円(まる)い土俵を愛する「相撲愛」は、突き詰めれば「人類愛」となるはずだ。星野さんは、今後も文学で相撲への思いを表現していくという。2月に発売する短編集には新作短編「世界大角力共和国杯」を収録する。

 「こうだったらいいのに、という近未来の『スモウ像』ですね。文学のパワーには恐ろしいものがあると思うんですが、実際に人がどこまで現実にコミット(関与)していくかというとちょっと…。微力ではあるんですけど、自分としてはそこに力を込めてみたいと思っています」

 ◆星野 智幸(ほしの・ともゆき)1965年7月13日、米国ロサンゼルス生まれ。52歳。早大第一文学部卒。記者として新聞社で2年半勤務後、2年間メキシコに留学。1997年「最後の吐息」で文藝賞を受賞してデビュー。2000年「目覚めよと人魚は歌う」で三島由紀夫賞、03年「ファンタジスタ」で野間文芸新人賞、11年「俺俺」で大江健三郎賞、15年「夜は終わらない」で読売文学賞を受賞。16年に「星野智幸コレクション」(全4巻)を刊行。

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