【新刊レビュー】真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男

2018年9月4日11時55分  スポーツ報知
  • 田崎健太著「真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男」

 ▼「真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男」(田崎健太、集英社インターナショナル、2592円)

 ノンフィクション作家・田崎健太さんの新刊「真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男」は、日本の総合格闘技のパイオニア、佐山聡氏の生い立ちから現在までを追った初めての本書く評伝だ。

 1981年4月23日、蔵前国技館で行われた新日本プロレスのリングに突然登場したタイガーマスク。驚異的な跳躍力を生かした空中殺法は、瞬く間に全国の子どもたちを虜にし、正体不明の覆面レスラーは、ミステリアスな要素を持ったままヒーローとなっていった。

 本書ではその正体である、佐山氏をシベリア抑留された父親の代から描いていく。ミル・マスカラスに夢中になり、同級生にプロレス技をかけていた少年時代、プロレスラーであることを隠してこっそりキックボクシングの名門「目白ジム」に通っていた新弟子時代、英国で「サミー・リー」のリングネームでブレイクしたタイガーマスク誕生前夜の秘話…。めくるめく初めて明らかにされたエピソードが満載で、ページをめくる手が止まらない。

 小学生の頃にタイガーマスクに魅了された者として、読んで一番感じたことは、あんなにも夢中になったにも関わらず、なぜここまで佐山氏の素顔を知らなかったのか、ということだ。

 タイガーマスクとしての活動期間は2年4か月で、意外と短かった。新日本プロレスに内紛が生じたのを機に活動を休止。バラエティー番組に出演してあっさりと素顔をさらしてしまう。そしてそれまでの内幕を明かした「ケーフェイ」を出版してプロレス界と決別し、自らが求める格闘技の道を追求していく。

 タイガーマスクに魅了された世代にとっては、佐山氏がマスクを脱ぎ「ケーフェイ」を出版した時点で、その素顔を知り尽くしてしまったという錯覚を起こしたのかもしれない。そしてUWFに参戦し、格闘技団体・修斗を設立し、決別していったその後は迷走しているようにも見えた。決別したはずのプロレスに復帰している行動には一貫性がないように見えた。

 しかし、本書を読んで、それは断片的な情報だったからこそ、正確に伝わっていなかったのだということに気がつき、初めて腑に落ちた。丹念で粘り強い筆者・田崎さんの取材力、そして取材対象者への深い愛情に脱帽した。(甲斐 毅彦)

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