「子供の本質は変わらない」33年の時代を超えランクインした宗田理さんの「ぼくらの七日間戦争」

2018年9月4日12時0分  スポーツ報知
  • 「“こどもの本”総選挙」で8位に入ったシリーズ第1作「ぼくらの七日間戦争」を手にする宗田理さん
  • 1985年に発行された初版表紙
  • 「ぼくら」シリーズ最新刊の「ぼくらの大脱走」
  • 小学生が選ぶ「こどもの本」総選挙ベスト10

 女優・宮沢りえ(45)の映画デビュー作「ぼくらの七日間戦争」の原作者として知られるのが、作家の宗田理さん。中学生たちが協力して大人をいたずらで懲らしめる姿を描いた同作は1985年に出版。子供たちに根強い人気を誇り、今年5月にポプラ社が発表した「“こどもの本”総選挙」でも8位にランクインした。90歳になった現在も意欲が衰えることなく創作活動を続ける宗田さんに、「―七日間戦争」から始まる「ぼくら」シリーズにかける思いを聞いた。(高柳 哲人)

 約12万人の小学生が投票した「“こどもの本”総選挙」で、「ざんねんないきもの事典」や「おしりたんてい」シリーズなど、近年に発行された書籍が上位に選ばれる中、「ぼくらの七日間戦争」は、異質ともいえる一冊だった。対象となったのは2009年の「角川つばさ文庫」版だが、同作が初めて出版されたのは今から33年前。時代が変わっても、子供たちの心を捉える作品の力は変わらなかった。その「―七日間戦争」から始まる「ぼくら」シリーズは、全47作、累計発行部数は2000万部を誇る。

 「今も昔も、子供の本質は変わっていないということでしょう。ただ、現代では、みんなで集まって野原で遊んだりはしないし、秘密基地を作ったりもしない。というか、できない。人間関係は希薄になっています。昔は物がなくても何かを生み出して遊んでいたのが、今ではお金を使わないと面白い遊びができないという意識がある。そんな時に『ぼくら』シリーズを読むと『友達とのこんな関係っていいな』と感じると思うんです」

 確かに、子供たちがいたずらを駆使して大人たちを懲らしめるというシリーズの構造は、時代に関係なく楽しめるものといえる。

 読者からは「宗田さんの経験で書いてるんですよね?」と聞かれることも多いというが、実体験はほぼないという。

 「僕が子供の頃は戦時中で、遊ぶこともいたずらすることもできなかった。だから『こんなことができればよかったな…』という気持ちで書いていますね」

 宗田さんは現在90歳。最近の読者層は「孫を過ぎて、ひ孫くらいかな?」と笑うが、実際に子供たちから「今、どんなことを考えているのか」「何が流行しているのか」などの情報収集はしていない。

 「子供に取材をして書いたとしても、それはもう『後追い』ですから。流行や考え方は、時代を追うごとにどんどん変わっていく。取材で知り得たことを盛り込んだストーリーは、出版される時には古くなってしまうんです。だから『今の子供たちは〇〇なんだろうな』と媚(こ)びて書く必要は全くない。歩み寄ってもダメなんです。はやり物ではなく、本質を意識すればいいと考えています」

 とはいえ、当初は「―七日間戦争」は子供向けと思って書いた作品ではなかったという。

 「全共闘が解放区をうたっていた頃【注】は、(デモなどが行われていた)神保町で働いていたので姿を目の当たりにしていました。そんな時、『彼らに子供ができたら、どんな親になるんだろう』とふと思い、その後を気にしていたら権力との闘争から離れて“教育ママ、パパ”になっていた。『それってどうなの?』と思い、皮肉を込めて書いたのが『―七日間戦争』だったんですね」

 大人には見向きもされなかった一方で、子供たちが作品に熱狂していく。その後、「ぼくら」シリーズは最盛期には毎月新作が出るほどの人気に。宗田さんも「子供向け小説作家」と見られるようになっていった。その現象に一時は葛藤もあったが、ある言葉が宗田さんを納得させたという。

 「元々、社会派小説に興味があったし、大人向けの小説を書きたいという気持ちはありました。でも、『ぼくら』シリーズが忙しくて書く暇もなかった。そんな時、角川歴彦さん(KADOKAWA会長、当時は角川書店)に『子供向け小説は誰でも1、2作は書けるけれど、書き続けられる人というのは、なかなかいないんだ』と言われて。それで、『今の場所でやっていこうかな』と思うことができたんです」

 現在は、「角川つばさ文庫」で出版予定の書き下ろしの作品を執筆中。それ以外にも温めているアイデアがいくつもあるという。

 「今、書きたいと思っているのは東京に大地震と津波が来るから、それに備えて子供たちが一つの街を造るという話。『ぼくらのノアの方舟(はこぶね)』ですね。具体的に津波でどの辺りが沈むのかな…などと考えています」

 【注】全共闘とは68~69年の大学紛争の際、学部や考え方などを超えて各大学で組織されたグループ。東大と日大が有名で、正式名称は「全学共闘会議」。自らが支配する公権力の届かない場所を「解放区」と呼んだ。

 ◆アニメ映画化

 「“こどもの本”総選挙」の最終結果発表の際に宗田さん自身が明かしたのが、「―七日間戦争」のアニメ映画化。来年、劇場公開予定で現在、準備が進んでいる。KADOKAWAによると発表に伴って原作の売れ行きが再び上昇し、8月には5万2000部の重版がかかったという。アニメに対し、宗田さんは「子供が大人をやっつけることさえ変わらなければ、多少の変更に関しては口を出すつもりはない。実写映画の時もそうでしたが、原作とは別の作品だと思っていますから」。自身も「いち観客」として完成を楽しみにしているという。

 ◆「ぼくらの七日間戦争」 翌日から夏休みを迎えるという日、東京の下町にある中学校の1年2組の男子生徒全員が突然、姿を消した。やがて、彼らは廃工場を「解放区」と名づけ、その中に立て籠もったことが明らかになる。工場の外にいる女子生徒の力を借りながら、大人たちとの戦いを繰り広げる子供たち。そこに、1人の男子生徒の誘拐事件もからんできて…。

 ◆宗田 理(そうだ・おさむ)1928年5月8日、東京都世田谷区生まれ。90歳。8歳で愛知県西尾市に転居。日大芸術学部卒業後、編集者や広告代理店を経て、79年に「未知海域」で作家デビュー。同年の第81回直木賞候補作に選ばれる。85年の「ぼくらの七日間戦争」から始まる「ぼくら」シリーズはベストセラーとなる。

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