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青春全開、最高のフェス4・9「ブラバン!甲子園ライブ」観戦記

2017年4月10日16時0分  スポーツ報知
  • 青春の熱気が渦巻く日大三のブラバン(写真は神宮球場でのもの)提供:日本大学第三高等学校

 古い記憶は音楽によって鮮やかに呼び起こされる。白熱したコンサートを鑑賞しながら、そんなことを考えた。4月9日、日曜日。東京・渋谷のNHKホール。「ブラバン!甲子園ライブ~1都3県編~」を聴きに行った。場内は3階席まで老若男女でぎっしりの超満員。青春の熱気が渦巻く、素晴らしいショウだった。

 ライブは「2試合編成」。第1試合は拓大紅陵(千葉)対浦和学院(埼玉)。第2試合は横浜(神奈川)対日大三(東京)といったマッチアップ形式で展開された。4校とも高校野球ファンにはおなじみの強豪校で、いずれもブラバンは魅惑のオリジナル曲を有し、人気も高い。

 オープニングは意外だった。「ゴスペル甲子園」で優勝経験を持ち、「歌がうますぎる女子高生」として知られる鈴木瑛美子さんによる、「栄冠は君に輝く」の独唱でスタートしたのだ。伴奏はないアカペラゆえに、鈴木さんの声がストレートに響く。同時に、古関裕而さんのメロディーメーカーとしての卓越ぶりに思いを致す。ホール内が陶酔の境地にいざなわれると同時に、4校による合奏「栄冠は君に輝く」が奏でられた。場内はすっかり、夏景色。甲子園大会の開会式と化した。

 さあ、第1試合。ライブは両校の校歌演奏とエール交換からスタートする。拓大紅陵の「フレー、フレー、浦学」と浦和学院の「フレー、フレー、紅陵」に胸が熱くなった。すべてはライバルに対するリスペクトから始まる。高校野球の素晴らしさは、ここにあるのだ。

 拓大紅陵ブラバンの凄いところは、何といってもすべてオリジナル曲で疾走するところだろう。中でも「チャンス紅陵」は千葉県内の高校の53%が野球応援で演奏しているという。「燃えろ紅陵」もすっかり甲子園のスタンダード・ナンバー。個人的には「狙え紅陵」が好きだ。埼玉で行われた2003年秋の関東大会や、翌年のセンバツを沸かせた伊能英孝-中野大地のバッテリーを思い出す。チアや応援団も含めて、一体感が際立っていた。名曲群を生み出してきた吹奏楽部顧問の吹田正人先生には、心から敬意を表したい。

 浦和学院も粋だった。最後の最後まで「浦学サンバ」を温存し、一気に解き放った。それはまるでクラプトンがアンコールの最後まで「いとしのレイラ」をとっておくかのようだった。アドリブ的に随所に「ヒットマーチ」を挟むのも楽しい。お上品な「演奏会」ではない。試合の展開によって、スタンドの心模様に応じてどんな音でも鳴らせるぞ-という「矜持」が聞こえた。

 20分間の休憩を挟み、第2試合。先攻は横浜だ。校歌斉唱時には横浜の応援指導部が仕掛けた。NHKホールの通路を団員が駆けめぐり、オーディエンスに「静粛に願います」「フレーフレー三高でお願いします」と呼びかけたのだ。保土ケ谷球場や甲子園ではおなじみの機敏な動きに、観衆が沸き立つ。そして熱心な横高ファンが黄色いメガホンを振り上げ、それに応える。

 「第一応援歌」が始まった。男子校らしい野太い演奏。パワフルだ。熱量がハンパない。聴く人によって松坂大輔、涌井秀章、あるいは昨年の藤平尚真を思い浮かべる人もいるだろう。ブラバンの服装は白いワイシャツに黒のズボン。たたずまいもいい。「強い」演奏が生み出す強烈なグルーヴ。応援団長が骨太な舞いで、それを加速させる。MCのいけだてつやさんによれば、横浜のスーザフォンには過去3度、ファウルボールが命中し、一度は補球に成功したという。そんな小ネタもまた、楽しい。

 対する日大三は対照的だ。客席の通路にはチアリーダーがズラリ。華がある。洗練された「come on!!」などのオリジナル曲が大音量で放たれる中、ツインドラムがビートを刻み、チアが彩りを加え、疾走感が増していく。美しく、爽快だ。エース・山崎福也を擁して、興南の最強打線と対峙した2010年センバツ決勝の情景が自然と脳裏に浮かんでくる。こんな演奏の中で試合ができるなんて、三高野球部の諸君はどれだけ幸せものなのだろうか。

 2試合はともに「延長15回引き分け」。結びではMCのいけださんが「また来年お会いしましょう」と「再試合」の可能性を示唆した。結びは全4校による「アフリカンシンフォニー」と星野源「恋」の合奏。さっきまで男らしさに徹していた横浜の骨太応援団が楽しげに「恋ダンス」を踊るシーンは、ほほ笑ましかった。

 バックステージでは横浜の吹奏楽部顧問・立石洋介先生(56)に話を聴く機会に恵まれた。

 「ありがたかったです。NHKホールという、N響の演奏会を聴きに何十回と足を運んだ素晴らしい会場で、ウチの生徒達が演奏できるだなんて」。私は伝えた。いや、お礼を言いたいのはこっちですよ。横高の応援に、僕たち野球ファンがどれだけ勇気をもらっているか。「長くやっていますが、意外と中にいると、ウチの応援が人気があるって、分からないんですよ。『台風の目』が静かであるようにね。外から見たことがないから、分からない」。汗だくになりながらタクトを振った直後、にこやかにそんな話をしてくれた。

 高校野球にとってブラバンや応援団、チアは選手を盛り上げる立場ではあるが、「もうひとつの主役」であることが実証されたライブだったと思う。今回は1都3県だったが、この輪が広く全国へと広がってほしい。

 この日、熱演してくれたすべての高校生と、ライブのMCと構成を務め、成功に尽力した高校野球ブラバン応援研究家の梅津有希子さんに感謝したい。最高のフェスを、どうもありがとうございました。(記者コラム・加藤 弘士)

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